梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症 治癒への道」解読・《5》第3章 自閉的状態の分析・・・その方法と概念(3)

《第3章 自閉的状態の分析・・・その方法と概念》
【感想】
《人あるいは場面との出会い》
 ここからは、(いよいよ)①一見混沌としている自閉症の「奇妙な」行動の中にどんな規則性を見いだせるか、②「自閉的である」とは正確にいってどういうことなのか、についての「仮説」が述べられる。まず、ダーウィンが「情動の表出」と呼んだものの背後にある動因に特別な関心をもってきた動物行動学者たち(著者夫妻)が開発してきた方法とは?
《接近と回避》(正常な子どもの行動)
・子どもが「見知らぬ人」や「新しい場面」と出会った時に見られる一見ごく平凡な動きを観察することから始める。その時の動きは、まず第一に、人あるいは場面に向かって近づいていくものか、またはその反対にひきこもろうとするものである。*スピードを変える*かすかなためらい*「進め」から「止まれ」への切り換えや「その逆」*コースの方向転換*移動の型(歩く・走る・はう)や動きの開始当初の形(自閉症児の場合には、動きが少ないか、またもっと「奇妙な」動きをする。正常な動きと見分けがつきにくいこともある。
・接近に伴う表出やしぐさ:親しげな顔の表情、親しげな声、手をさしのべる、相手の顔を見る等。 
・回避に伴う表出やしぐさ:緊張・不安、怒っているような表情、隠れる、縮こまる、泣く、悲鳴をあげる、「うつろな目」で相手の顔を「通り過ぎて」その向こうを見ているような顔、無関心を装う等。
・この接近と回避という二つの極端な形は、正常な子どもでは同じく極端な状態でのみ起こる。最も多いのは「中間的な行動」である。*ゆっくりと接近していく*かすかな微笑みをうかべながらも同時にほんの少し疑うような、取り調べるような顔つきをする*相手のちょっと手前で立ち止まる、止まった瞬間に向きを変える*相手をまっすぐに見るのを避ける*指をくわえる*「うつろな」目の表情の時もある。かなりの時間、接近・回避という二つの間を行ったり来たり揺れ動いていることが、最も多い。  
・自閉症児の場合、すぐそばに接近するという行動はずっと少なく、ごくまれであり、一方、回避行動のほうはほとんど例外なく認められる。自宅の部屋にいる時でさえ、ほとんどすべての人からひきこもる。部屋の中心を避け、隅やテーブルの下に隠れる。移動の時は、壁に沿う、他の人からできるだけ大きな距離を保って、ぐるぐる回って歩くことを好む。
《その他の行動》(自閉症児の場合、接近か回避か容易に分類できない行動も見せる)
・「イライラした」、常同的・一見無意味な動き*まばたき*指・手・足を動かす*顔をしかめる*体を揺する*くるくる回る等の動作をする。
・相手に接近する場合は、相手の顔を見ないで「手や足」にさわり、相手の手や足を道具のように使ったりする。(クレーンハンド)
・いろいろな音、相手からの話しかけを無視しているように見える。
・自閉症児をひとりで放っておくと、回避行動や「イライラした」行動は目立たなくなってくる。新しい場面の中でも、見知らぬ人や物に対して接近し、それを探索するようになる。しかし、もし見知らぬ人の方から接近しようとすると、子どもは接近をやめて引きこもったり、金切り声をあげたり、かんしゃくを起こしたりする。また、「凍りつき」(非常に固くなってかがみこむ)や「ひきつけ」の発作をおこすこともある。
《混沌の中に秩序を見る》
・(見知らぬ人や新しい場面・物に出会った)自閉症児の行動(単一な動き)を、①「接近」・「回避」(関連行動)の二つに分類し、②その行動を「完全な」「ためらいのない」「激しい」形のものと、「不完全な」「ためらいがちな」「弱い」形に区別・整理すると、ごく少数の法則に従った、数多くの規則性を発見することができる。
・これらの行動の原因は、①内的な状態(例えば、食事行動の場合の「空腹」)と、②外界の出来事(例えば、食事行動の場合の食べ物からの刺激)である。単純にいえば、さまざまな内的な状態が一緒になって外界からの刺激に反応する準備状態の程度が決まる。その準備状態の型(例えば「空腹」)およびその強さ(どのくらい空腹か)の両方を示すのに「動因」という用語を使う。動因が強ければ強いほど、その行動をひきおこす「引き金」として必要な外界の刺激は弱くてすむ。また、その時の動因の状態いかんで、動物は同じものに対して、今はこれ、次はあれ、といった反応行動を示す。例えば、母猫は、守るべき子猫が居ない時には慌てふためいて逃げ出すほど怖い、同じ犬に対して、子猫が居る時には、たとえそれがどんなに大きくても、怒る狂って攻撃を加える。
・動因とそれに関わる刺激との間の、この相互的補完的な関係と、動物や人が同じ一つのものに対して見せるさまざまな反応という、この二つのことは、自閉症児を理解したり、互いにやりとりをするにあたって、またその治療においてもきわめて重要な問題である。正常児の場合、笑顔は、対人的に積極的な反応をひきおこし、怒ってにらめばその反対の行動が起こる。中立的な表情は中間的な効果をもつ。が、大変不安定もしくは対人的恐れをもつ子どもは、これらすべてのタイプの顔に対して容易におびえてしまう。
・子どもが、ふつうはよく反応しているような種類の刺激に対して反応を示さないという場面も多い。例えば①音に反応しない子どもは「聾」かもしれない。②子どもはある種の音に対して、関わらないまたは興味がないと決め込んでいるために反応しないのかもしれない。③子どもは満腹な時は「プリンをもっとあげる」と言われても反応しないかもしれない。④子どもは「気後れ」しているとか、話しかけられて怖がっているとかで、名前を呼ばれても反応しないことがある。反応を拒否する、あるいはおそらく反応「する気になれない」のである。以上の②③④を「遮断」という。これは重要な問題である。(多くの医師は、反応がないことを、そのまま感覚ー神経ー運動器官またはその一部の、構造上の損傷あるいは未発達による機能障害とみなしてしまう傾向がある)
《動因の葛藤》
・子どもが、人あるいは物または環境との「出会い」の場面を調べてみると、そこでは、「接近」と「回避」という二つの活動が、同時に生じている。子どもは、出会った人あるいは場面に対して接近「と同時に」ひきこもりの反応をしている。そのような動因の状態を「葛藤状態にある」という。
・このような「葛藤行動」については、動物を対象にして広く研究されているので、以下その方法、結果などについて述べる。


 以上の論述を読んで、私が理解したことを整理すると、以下の通りである。
①見知らぬ人や、新しい物・場面に出会った子どもが示す行動は、「接近」「回避」に分類されるが、自閉症児の場合、その中間である「イライラ」行動が多く見られる。また、すべてに「回避」行動が見られる。
②それらの行動は、子ども自身の内的状態(動因)と、外的刺激の相互補完作用によってひき起こされるが、自閉症児の場合、内的状態の不安定、対人的恐れが大きく、通常の外的刺激によっても、「回避」(引きこもり・「遮断」など)してしまう。
③動物の内的状態(動因)は、その場面によって、(つねに)接近「と同時に」回避という「葛藤状態」にあることを理解しなければならない。(2013.11.18)