梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「戦後78年 ℤ世代と戦争」

 NHKプラスで、8月15日に放送された「NHKスペシャル 戦後78年Z世代と戦争」を観た。Z世代3000人に実施したアンケートの結果をもとに、Z世代12人と専門家が、戦争について話し合うという内容であった。アンケートでは「今後10年以内に日本が戦争に巻き込まれる可能性はあるか」には「ある」、「戦争はなくせるか」に「なくせない」、「太平洋戦争に関心があるか」に「ある」という回答が、いずれも50%を超えていたという。出演したZ世代の12人も、過半数がそのような回答であった。「もし戦争に巻き込まれ、その当事者になったらどうするか」には、「戦争に反対する」が36%、「逃げる」が21%、「参加する」が5%であった。Z世代の12人も「反対する」「逃げる」「武器を取って戦う」と意見はまちまちであったが、全員に共通している点は、「戦争を体験していない」という一点である。しかし、1人だけ「それに似た体験をしている」青年がいた。元自衛官で今は運送会社に勤務しているという。自衛官として勤務したのは2年ほどであったが、彼は「銃で相手を撃つことができなかった。だから、自衛官を辞めた」と言う。この青年の言葉は重い、と私は思う。「戦争」とは「相手を殺すこと」であり「殺さなければ殺される」という場面に自分の身を置くことである。
 かつての日本では「戦争で死ぬこと」が名誉とされ、生還することは「恥」とされた。民間の女性、子どもであっても、降伏するよりは「自死」の道を選んだのである。だから、戦後、生還した兵士でも「戦争体験」を語る人は少なかった。沈黙を貫いて亡くなった人たちがほとんどであろう。
 私自身も戦争の体験はない。召集された父も体験を語ることはなかった。でも、爆撃で傷ついた少年の姿を見たことはある。中学や高校で、自らの戦争体験を話してくれた教員もいた。そうした「戦争」を体験した人たちから出てくる言葉は、異口同音に「二度と戦争を繰り返してはいけない」であった。戦争体験を語れる人が日に日に少なくなって行く中で、「戦争とは何か」を語り継ぐことはきわめて重要である。そして、それ以上に重要なことは「戦争はなぜ起きるか」に注目し、その要因を絶つことではないだろうか。アンケートでは「人々の価値観が異なるから」が最も多かったが、私は「戦争はビジネスだから」が最いも近いと思う。世界には(日本も含めて)、武器弾薬を製造する軍事会社が、数多く存在する。「戦闘」を業務とし「兵士」を調達する会社もある。そうした軍事企業の意向で、「戦争」はいとも簡単に勃発する。さればこそ、いつでも、どこでも「戦争が絶える」ことはないのだ。
 私がZ世代に伝えたいことは「戦争を知ることと、解ることは別です。戦争とは人を殺すこと、あなたは人が殺せますか」という一点と、「国を守るとか、正義を貫くとか、もっともらしい『言葉』に騙されないように」という一点である。(終わりに、1970年代に流行った名曲ひとつ、『教訓・1』(加川良)を捧げます。ユーチューブで御照覧あれ!)
(2023.8.17)

加川良 「教訓 I」 Kagawa Ryo "Kyokun I" (Lesson One)