梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

安倍首相の《失敗》と《責務》

 安倍首相は「緊急事態宣言」を、さらに1か月延長することについて、その不手際(失策)を「私の責任」と言って謝罪したようだが、何が失敗だったのか、どこで判断ミスをしたのか、については言及していない。そのことについて全く気づいていないのか、それとも「例によって」核心はぼかしたまま、殊勝なポーズだけで国民を騙そうとしているのか、その魂胆は定かではないが、いずれにしても《すぐに》明らかになることなので、念のため指摘しておく。
 安倍首相の第一の失敗は、3月9日から始めた「中国・韓国からの入国規制」である。私は3月6日の雑文で、以下のように綴った。
 〈・・・安倍首相が「中韓からの入国規制」の要請を表明したそうである。中国、韓国からの入国者は指定場所で2週間待機し国内の交通機関を使わないことを要請した由。(中略)中国の感染者数は3月2日の時点と比べて1.004倍、死者数は1.03倍の増加でほぼ横ばいになった。韓国は感染者数1.40倍、死者数1.53倍の増加だから予断を許さない。だから韓国の入国規制は当然としても、イタリア(感染者数1.82倍、死者数3.14倍)、イラン(感染者数2.34倍、死者数1.62倍〉、米国(感染者数1.72倍、死者数5.5倍)からの入国も規制しなければ意味がない。どうして中国と韓国だけなのか・・・(以下略))
 結果として、3月9日までは1165人だった感染者数は、5月5日の時点で16067人(13.8倍)まで、死者数は12人から579人(48.2倍)まで増加してしまった。この責任は極めて重大である。もし、3月5日の時点で「欧米・中東諸国からの入国規制」もしていれば、ここまで感染が拡大することは防げたかも知れないからである。世界の動向を見誤り、中国、韓国からの感染だけを防ごうとした「狭量さ」が、今日の危機を招いた、と言われてもしかたがない。
 第二の失敗は、3月24日まで「オリンピック・パラリンピックの開催」を目指していたことである。私は、前述の雑文で3月10日に「中止すべき」旨を述べたが、「すったもんだ」を繰り返しながらその2週間後に延期が決まった。「遅きに失した」とはこのことである。関係者は日本の感染者数が「少ない」ことを印象づけて、開催にあくまでこだわった。その間に海外帰国者からの市中感染に歯止めがかからず、開催延期が決まった直後から、感染者数は爆発的に拡大する様相を見せ始めたのである。
 以上、2点が「感染拡大」への対応の最大の失敗だが、さらに第三の失敗が明らかになるのも時間の問題だろう。それはいうまでもなく、《死者数の増大》を防げなかった責任だ。「死者数は世界の中では少ない」と強弁するかもしれない。だが公表値が正しいとしても、5月5日の時点で579人である。隣国・韓国は5月6日現在、感染者数10806人、死者数255人という数値が公表(「聯合ニュース」)されている。3月3日の時点で、韓国の感染者数4335人(日本は972人)、死者数26人(日本は12人)だったから、その2か月後には「完全に逆転」されてしまった。その責任も決して軽くはない。今からでも遅くはない。死者数を最小限に食い止めること、いつも口癖にしている「国民の命を守ること」を具現化することこそが、一国のリーダーを務める安倍首相の責務なのだ。
(2020.5.7)