梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「言語発達の臨床第1集」(田口恒夫編・言語臨床研究会著・光生館・昭和49年)通読・11

【要約】
E’おそらくは愛着的母子相互反応を通して身につけられていく、人や環境とのやりとりのし方やふるまい方や判断のし方がわからず、そのために、見なれない人や新しい場面に対して、とまどい、緊張、恐れ、回避などをみせ、関係の変化や進歩が乏しいことを示す症状。
78. お風呂に入ったとき人との接触をいやがる。避ける。どうしたらよいのかわからずウロウロする。
79. 家の中でも迷子になる。
80. 人を見ると抱きついてくる。人にすりよることが好き。
81. 来客があると2階へかくれている。
82. 見なれない人に対しては無関心をよそおう。
83. 人が来るとかぎや本などを一生けんめいに見ているふりをする。表情は固くその人を気にしているかのようである。
84. 視線をたえず気にしてチラッと様子をうかがう。
85. 人を避けられないような場面では、体を固くする、見ないようにして視線をそらす、大声でしゃべる、ウロウロする。
86. 人に抱かれると激しく手を動かし、下りたがる。
87. 自分のしていることをさえぎられても、さっとあきらめる。
88. 絵本やおもちゃなどのとりあいになってもすぐあきらめる。
89. もののとりあいをして、とられるとすぐにあきらめる。
90. 高いところにあるものを取りたいときも人の助けを求めない。自分で取ろうとする。だめだとすぐにあきらめる。指さしをせず、しばしばおとなの手首をつかんで欲しいものの方へ引っぱっていく。(提示)
91. 人に何かしてほしい時には、手を引っぱっていく。(提示)
92. 冷蔵庫に欲しいものなどあると、おとなの手首を引っぱっていく。(提示) 
93. 人への働きかけが少ない。
94. 人といっしょにいて、楽しむような遊びはほとんどしない。
95. 遊びに発展がない。
96. ものの機能や用途を生かして遊ぶことが少ない。
97. 人に相手をしてもらった後、帰るさいには、知らない人のようにみれんもなくスタスタと行ってしまう。
98. おとなや年上の子どもには寄っていくが、自分より小さい子どもには関心がない。 99. ほかの子どもとは無関係に遊ぶ。
100. ほかの子どもの遊ぶのを見ているが、仲間に入れない。
101. 友だちと遊べない。
102. 仲間の子どもを急に突き飛ばしたりする。
103. 友だちを突然たたく。
104. 女の子の髪の毛を突然引っぱる。
105. 他の人を噛む。
106. 他の人の首をしめる。
107. 大きな低い音(ダンプカー、かみなり)をこわがる。
108. TVのCMでこわがるものがある。
109. ある種のTVのCMをきらう。恐れる。
110. 初めての(知らない)場所に行くと、こわがって泣く。
111. 車が走ってきてもこわがらない。
112. 医者、床屋、犬、虫をこわがる。
113. 高い所に登る。高いところを平気で歩く。
114. ミミズや昆虫やへびなどをこわがらない。
115. 手をつないでいても何となく固い感じがしていた。
116. 人を避けるようで、人が来ると他の部屋に行っていた。
117. 人が来ると、歯ぎしり、こぶしをにぎりしめる、目を指で押さえる、などのくせがふえる。
118. 人を見るとピョンピョンと飛び跳ね、力を入れてこぶしをつくり「キーキー」言う。
119. 見知らぬ人に会うと、「ウーウー」とうなるような声を出し、視線が定まらなくなる。
120. 見なれない人が近づくと無視しようとしたり、避けようとしたりする。
121. 人が近づいて抱こうとすると、緊張して身を固くする。
122. 何かさせようとすると、顔色が変わる。やらない。泣き出すこともある。
123. テストなどされることがわかると拒否する。荒れる。
124. 訪問先では緊張して何も食べられない。
125. 学校の給食はほとんど食べない。
126. EEG検査で眠剤を飲ませても、注射されても、なかなか眠らない。
127. ウンチは誰もいない暗いおし入れでする。
128. ウンチはパンツの中でしかしない。
129. ひとに迷惑になるようなことを平気でする。
130. いろいろと困ったことをする。


【感想】
 以上の項目は、「愛着的母子相互反応」を通して身につけられて「いかなかった」ために生じる、様々な症状である。その内容は、新しい場面、人、物に対する「回避」行動であり、子どもの心中には「恐れ」「緊張」「とまどい」といった感情が渦巻いていることだろう。唯一、「E’80 人を見ると抱きついてくる。人にすりよることが好き」という項目は、人に対する「接近」を示しているが、なぜだろうか。すでに見た「自閉症治療の到達点」の中で、著者の太田昌孝氏は(自閉症児・者の)対人関係の変化について、
「Wing & Attwood(1987)の研究」を引用し、「相互的なやりとりの関係の成り立ちに着目、孤立群、受動群、積極・奇妙群、適切な相互交流群に分類している」「・孤立群は、社会的な接触が最も欠けているグループである。・受動群は、他者に対して自発的な社会的接近をすることのないグループである。・積極・奇妙群は、他者に対して自発的な接近をするが、その方法は奇妙で幼稚であり一方的なやり方であるグループである」(Ⅰ章・自閉症の概念と本態 7節・思春期から青年期での変化と問題)。だとすれば、この項目は、幼児期における「積極・奇妙群」の萌芽現象であるかもしれない。 
また、ここでは「回避」行動のみならず、「クレーン現象」(項目90,91,92)や、相手に対する「攻撃」行動(項目102,103,104,105,106)も挙げられており、いわゆる「パニック現象」の源泉が示されている。いずれにせよ、それらの要因が「愛着的母子相互反応」の不足・欠如にあると想定されていることが、私にはたいそう興味深かった。(2014.5.1)