梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)」(佐久間徹・二瓶社・2013年)通読(6)

【固執、こだわり行動】
・水や砂の感触に没入、道順や換気扇へのこだわり、などの症状行動は、直接の禁止や抑制は労多くして益少なしで、賢いやり方ではない。実生活上に大きな支障がなければ、「後回し」にすべきである。
・子どもの情緒状態の判断の指標にする方がいい。情緒的に良好な時には固執やこだわりの強度が弱まり、よくない時には固執やこだわりがきつくなる。
・しかし一方、超いい時にも固執やこだわりが強くなる。固執やこだわりがきつくなり、一方で、ことばや社会性に前向きの変化が確認できたら、それは超いい時と判断する。
・風邪の発熱や咳、下痢の症状の前日に、こだわりがきつくなることがある。
・基本的には、先述した①②③(愛着、甘やかし、逆模倣)の効果が出だすと、固執、こだわりはゆっくりと弱化し、消滅していく。特に、静かな抱っこ20分や皮膚刺激で、固執もこだわりも大幅に緩和する。
・生活全体を構造化し、適応性を高めるというティーチのやり方は、固執、こだわりが改善できないと決めつけている。絵カードの使用も、言語に移行できた事例を見たことがない。
【五感のアンバランスによる不適応行動】
・極端な偏食、臭嗅ぎ、異食、音や光の過敏、肌触りのこだわりなど五感のアンバランスは、たいていの場合、2歳から5歳にかけてゆっくり修正されるのだが、なぜか修正されないままになっている。生理学的に前庭刺激、皮膚刺激で感覚のアンバランスは修正される。
・五感のアンバランスを奇妙な好みと軽く考えずに、感覚統合を進めるべきである。聴覚、視覚よりも嗅覚が敏感に働くというのは発達障害をまねく。感覚統合で、ゆっくり、ほぼ月単位で、しかし、確実に、改善が進む。
【その他さまざまな不適応行動】
・手づかみがなおらない、食事中の立ち歩き、後片付けができない、衣服の着脱ができない・・・など。こうしたことを一つ一つ教えていく、「積み上げていく」という教育迷信からの脱却が必要である。見通しや計画を持ち得ないための言い訳である。指導の優先順位を考えるべきだ。こうした不適応行動が問題なのは、同年齢児との比較だけだ。成人するまでにできるようになればいいことであり、遅いということは問題ではない。
・自発的模倣行動が活発になれば、いずれも「教える」ということなしでできるようになる。
【おしっこトラブルの解決策】
・指導の優先順位からすると、ごく低位のものである。排泄の自立を達成できたからといって、発達全体への貢献はごく貧弱なものである。
・排泄の自立は遅い早いがあっても、10歳過ぎには達成するものである。しかし、6歳以上の健常児や軽度発達遅滞児では、自己劣弱感、自信喪失感に陥り、精神発達に歪みをもたらす。そうした場合には、指導の優先順位は高くなる。
【おねしょ】
《具体的解決策その1》
a. 生活全体を見回し、ストレスになっていると思われるものをできるかぎり排除、低減する。
b. 入眠時に十分リラックスする。
c. 就寝30分前にたっぷり水分を取り、排尿後に寝る。
d. 朝、布団がぬれていない時には、子どもと一緒に大喜びをする。失敗の朝は、黙って後始末をする。
・水分制限の解除がポイントである。
・2週間の経過観察をし、おねしょの回数の減少、おねしょの時間帯が早朝に移行するのが確認できたら、そのまま続ける。改善の兆しがない場合は、次の策を実行する。
《具体的解決策その2》
・寝具と寝室をがらりと変えてみるといい。特に重要な点は、アンモニア臭のない状況にすること。布団からパジャマ、枕まで全てをがらりと変える。(1週間で効果がない場合、それ以上の繰り返しは無駄である)
《具体的解決策その3》
・夜半覚醒を試みる。夜、何時頃には排尿しているか、およその時間帯を調べて、それより30分ほど早いタイミングで覚醒させ、トイレ排尿をさせる。必ず、声かけ、身体ゆすりだけで起こす。トイレまで自力で歩かせ、はっきり覚醒状態にしてから排尿させる。終わったら大いに褒めそやし、抱っこでベッドに戻る。翌朝、布団が乾いていることを確認させ、一緒に大喜びする。
・1か月ほどで改善がみられない場合は、次の最終手段を試みる。
《具体的解決策その4》
・アラームパンツを使う。適切に使用すれば、最難治のおねしょ克服の決め手になるはずである。専門機関の指導の下で試みる。
【トイレ排尿の困難】
・問題解決のポイントは、トイレを大好きな場所にすることである。(飾る、CDで音楽を流す、一緒に歌を歌うなど)
・トイレの中で子どもを膝の上に乗せて、一番大好きなおやつを食べる。そのおやつはトイレ以外では食べられない。
・膀胱満タンのタイミングを狙って便器に座らせ、水鉄砲で排泄器に水をかける。冬ならぬるま湯にする。子ども特有の生理反応で排尿が誘発される。何度か繰り返したら、指で水鉄砲の仕草をするだけですむようになり、さらに「シー」という声だけですむようになる。ウンチの場合なら、ぬれガーゼで肛門付近を刺激すれば排便が誘発される。
・紙オムツの中におしっこ、大便の習慣ができてしまい修正が難しい場合は、穴あきオムツ作戦を採用する。紙オムツのままで便器に座り、おしっこ、ウンチを紙オムツの中ですることを繰り返す。頃合いを見計らって、オムツに小さな穴を開けて、本人は紙オムツの中のつもり、出したら便器へ落ちるという具合にする。暫時、穴を大きくしていく。
・トイレ以外の場所が排泄の場所になっている場合は、マーク作戦である。排泄の場所に目立つマークを置き、数週間、きちんとマークの所で排泄を続け、そのマークをトイレの場所へ少しずつ移動させる。移動距離が大きいと抵抗が生じるので、センチ単位の移動から始めて、暫時移動距離を大きくし、トイレの中まで導く。


*いずれにしても、トイレの自立は発達全体への波及効果が大きいものではない。貴重な時間とエネルギーはもっと波及効果の大きい項目に振り向けるべきである。


《感想》
・ここでは、「固執、こだわり行動」「五感のアンバランスによる不適応行動」「その他さまざまな不適応行動」「おしっこトラブルの解決策」について述べられている。私が興味深かったのは、著者がそれらのうち「五感のアンバランスによる不適応行動」以外は、それほど《重要視》していないということである。特に、育児にあたる親にとって、「おしっこトラブル」は、最大の悩み事であるはずなのに、「いずれにしても、トイレの自立は発達全体への波及効果が大きいものではない。貴重な時間とエネルギーはもっと波及効果の大きい項目に振り向けるべきである」と言い放つ(臨床家としての)姿勢は素晴らしい。「排泄の自立」は親の負担軽減には十分寄与するが、子ども自身の発達にとっては、貧弱な結果しかもたらさない、ということが繰り返し強調されている。著者は、子どもの発達よりも親の都合(「合理的利便」)を優先する、といった現代の育児事情を痛烈に批判しているように思われた。なるほど、子どもの「固執やこだわり」がなくなり、「様々な不適応行動」が減弱・消滅、しかもそのうえ「排泄」まで「自立」すれば、親としては「万々歳」、これ以上の幸せはない、ということになる。だがしかし、そのことだけで「自閉症」という問題を解決することはできない、という著者の主張が、私にはよくわかる。子ども自身が幸せにならなければ、問題は解決しないのである。
 そのために、著者は「五感のアンバランスによる不適応行動」に注目し、「感覚統合」の重要性を指摘している。以下は「感覚統合」に関するインターネット情報の一つである。
〈感覚統合とは〉(奈良教育大学ホームページ) 
字を書いたり、人の話を聞いたり、友達と遊んだりするときには、いろいろな感覚情報を脳が無意識に処理しています。感覚には、固有感覚(身体の動きや手足の状態の感覚)、前庭感覚(身体の傾きやスピードの感覚)、触覚、視覚、聴覚などがあります。これらの感覚を、整理したり統合(まとめること)したりする脳の働きを感覚統合といいます。例えば、お友だちと鬼ごっこをするときは、自分の走っているスピードやお友だちとの距離感などを感じる、お友だちを目で追う、などいくつかの感覚情報を上手に処理する必要があります。意識せずそのようなことができて初めて楽しく遊べます。いくつかの情報を正確に処理できずに、とんちんかんな行動になると、みんなとのズレが生じることになります。
また、字を書くときは、ノートに書いている文字を目で追いながら、指先の動きの感覚や触覚などの感覚を上手く感じることが必要です。このような感覚の“感じ方に歪み”があると、字を書く動作はとても難しくなります。感覚統合療法とは、このような子ども達ひとりひとりの「感覚の感じ方」に着目して治療的アプローチを行うものです。実際の感覚統合療法は、専門家によって行われますが、個別治療だけが有効とは限りません。子ども達が「好きな感覚」「必要としている感覚」をお手伝いや遊びのなかでたくさん提供したり、「苦手な感覚」を少し軽減したりするなど、感覚面に配慮した環境の工夫も有効です。「特定の音が極端にきらいで、過敏に反応する」、とか「体の使い方が非常に不器用」、「衣服や身の回りのものに、とってもこだわりがある」等のエピソードがいくつかある場合、専門家に相談してみてもよいかもしれません。〉(サイトマップ「奈良教育大学・特別支援教育研究センター・特別支援教育に関するガイド」より引用)(2014.5.16)