梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)」(佐久間徹・二瓶社・2013年)通読(5)

【自傷行動】
・自傷行動への対処は大ざっぱに二つに分けられる。一つは自傷を人のいないところで隠れてやっているかどうかである。もうひとつは、自傷を必ず人がいるところでやっているかどうかである。前者は人の存在が邪魔な場合、後者は人の存在が必須条件である。
1.人の存在が無関係な自傷行動
・この自傷は、自分の体に傷をつけるほどの痛覚、苦痛が事後の出来事として自傷を強化していると考えられる。
・マッサージでもなく、乾布摩擦でもなく、特定の刺激法があるわけではない。とにかく足の裏から頭のてっぺんまで、指の1本1本まで全身くまなくこする。自分で頻繁に刺激を与えている部分を特に念入りにこする。朝晩、日に2回は必ず、そして、手が空いているときにはいつでも体をこする。強く、弱く、早く、ゆっくり、素手で、布で、ブラシでと、思いつく限りのこすり方を試み、こすりながら表情を見る。一番心地よさそうなやり方を見つける。本人が満足して立ち去るまでこする。立ち去るまでが毎回30分を超すようなら、少しだけ強くこすれば時間が短くなる。強すぎると嫌われてしまう。触られるのを嫌がる子どもがいる。触覚の過敏状態なので瞬間タッチを繰り返し、慣れを作る。身体の特定部位に触られるのを嫌がる場合には無理をしない。
・効果に手応えが感じられるまでに時間がかかる。最短で1週間、平均で2か月程度、しばしば6か月後にやっと手応えが感じられることもある。時間がかかるが、効果ゼロはほとんど経験しない。こんな単純素朴な方法で悲惨な結果は避けられる。
2.苦痛の緩和手段としての自傷行動
・ある日突然、原因もわからず激しい自傷行動が生じることがある。十中八九、病気の苦痛が原因である。苦痛に対して身体に別の痛みを引き起こすと、痛みが相殺し合って痛みの緩和が生じる。それが自傷行動を強化していると推定される。「ある日突然」が特徴である。
・問題の解決は身体の痛みの発生源を見つけることである。(虫歯、口内炎、中耳炎、関節痛、肩の亜脱臼、盲腸炎の初期、鼻腔への異物侵入など)
3.なんともお手上げの自傷行動
・ある時突然、自傷行動が出現する。頻度は1日に数回から数日に1度という間隔である。自傷の背後メカニズムがわからない。偏頭痛、不安発作の反復などが想像される。鎮痛剤で緩和されるケースもあれば、全く無効というケースもある。
4.人の存在が必須条件の自傷行動
・自傷行動に対する人の反応が、自傷行動の強化子として働いている。
・一般に、自傷の阻止、中止は困難であるが、反応強度分化強化手続きが有効である。
・自傷は意思伝達の手段としての行動なので、行動コントロールは難しくない。
・解決を困難にしているのは、行動強度や行動メカニズムの複雑さではなく、問題解決をしようとしている側の頑固な思い込み、偏見、固定観念、柔軟思考の欠如である。
・例:社会的に不都合な場面ですぐ全裸になってしまい、全裸を妨害すると激しい自傷を示すというなら、全裸になる行動の原因を推測して解決をはかればいい。注意引きが目的なら、合理的代替え行動に置き換えればいい。皮膚感覚の偏りによる場合なら、皮膚刺激で感覚の統合化をはかればいい


〈感想〉
・ここでは、「自傷行動」に対してどのように対応すればいいか、がわかりやすく、具体的に述べられている。まず、その行動を、人の存在と無関係であるか(一人の時に、隠れてやるか)、それとも、人の存在を必須条件としているか、に二分し、前者の場合は、とにかく「全身をこする」、後者の場合は「他傷行動」のときと同じように「反応強度分化強化法」を用いるということである。
・いずれも、著者の臨床経験から導き出された「対処法」であり、たいそう説得力があった。ここでも、私たちに要求されるのは、子どもの表情を読み取る「観察力」と、変化が生じるまで実践を繰り返す「持続力」であることを肝銘した。とりわけ、「解決を困難にしているのは、行動強度や行動メカニズムの複雑さではなく、問題解決をしようとしている側の頑固な思い込み、偏見、固定観念、柔軟思考の欠如である」という一文を銘記したい。(2014.5.15)