梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「言語発達の臨床第1集」(田口恒夫編・言語臨床研究会著・光生館・昭和49年)通読・17

【感想】
D 治療
⑴ひとりひとりの子どもに即した、もっとも有効的なアプローチは、どのようにしたらもっとも能率的に発見することができるか。
《所見》
・子どもへのアプローチで最も大切なことは、「実態を的確に把握すること」(今、どんなことができるか)だと思う。そのためには「行動観察」が必要不可欠だが、その方法としては、まず①こちらから働きかけない(直視しない、接近しない)で、②子どもの自発的行動を「見続ける」こと、③子どもからの働きかけに対しては「笑顔」で応じること、④無言の働きかけに対しては無言で応じること、③声やことばによる働きかけに対しては「逆模倣」で応じること、④「質問」にたいしては「返事」をすること、が有効的である。そのことを通して、子どもが、「場所」「物」「人」に対して①回避しようとしているか、②接近しようとしているか、③回避⇌接近の葛藤状態にあるか、を見極めることが重要である。子どもの行動を「接近」「回避」「葛藤」に分類し、どの行動が多いかを判断する。時間の経過の中で、「回避」「葛藤」が減り、「接近」が増えていくようであれば、そのアプローチは意味がある(有効である)ということになる。要するに、子どもを受け身にしないこと、子どもが自発的にこちらに「働きかけ」てくるまで「待つ」こと、「接近」を「やりとり」にまで発展させること、その結果、①表情・視線による「やりとり」、②物の「やりもらい」、③動作による「やりとり」、④声による「やりとり」、⑤ことばによる「やりとり」が成立するようになれば、子どもの「可能性」が見えてきたことになる、と私は思う。
⑵最初から母親と子どもとの間の関係を形成・充実させるのに役立つ臨床家のふるまい方。
《所見》
・まず、「臨床家と子どもとの間の関係を形成・充実させる」ことが先決である。その関係は、先述した「子どもへのアプローチ」がモデルになる。そのことによって、子どもが母親の前では見せなかった「表情」や「行動」を示すようになれば、母親は「自分との関係」との差異に気づくかもしれない。しかし、多くの場合、「気づかない」か、気づいても「そのアプローチを採り入れようとしない」のではないだろうか。もし、「気づく」「採り入れる」ことができるようであれば、もともと母親と子どもの間の関係は「形成・充実」していたはずだからである。子どもに比べて、母親の態度を「改善」することは容易ではない。
・私の独断と偏見によれば、自閉症治療の困難さは、まさにこの一点、すなわち「親の養育態度を改善することにある」といえよう。臨床家・研究者は、今後、子どもの側を対象とすることはやめて、親を対象にした研究に着手することが肝要である。ちなみに、「障害乳幼児の発達研究」(J.ヘルムート編・黎明書房・昭和50年)には「正常幼児と異常行動をもつ幼児の母ー子相互関係行動の比較」(ナーマンH.グリーンベルグ)という論文が収録されている。参考にしたい。
⑷親が“赤ちゃん帰り”“甘ったれ”に驚き、“過保護”かと心配し、将来の自立、自律性(しつけ)・社会性・言語の発達に不安をもつことが多い。これらの親の問題にどう臨むか。
《所見》
・「将来の自立、自律性(しつけ)・社会性・言語の発達に不安をもつ」親の特徴は、①日常の生活の中で「過度な不安」が生じていること(いわゆる「心配性」気質)、②わが子(の発達)を「つねに}他の同年齢児と「比べる」こと、だと思われる。したがって、この2点を軽減・解消することが問題解決のポイントになるが、親がそのような特徴をもつに至った「経緯」「背景」を明らかにする必要がある。「家族関係」「家風」「育児経験」「生活水準」「地域の教育環境」等々、さまざまな要因があるだろう。その一つ一つに向かい合いながら、「親の立場」を理解し、共感的なアドバイスを重ねることが肝要である。
・親の気持ちは「将来」に向いているので、それを「過去」に向け直し、「現在」の“赤ちゃん帰り”や“甘ったれ”が「今後」の発達・自立にとって必要不可欠なものであることに気づかせたい。他の同年齢児もまた、そのような段階を「経て」きたことを納得できれば、そのような不安・心配は軽減・解消できるのではないだろうか。そのためには、親同士の「情報交換」「集団カウンセリング」「学習会」、また「育児記録(日誌)」を綴ることなどが有効だと思われる。(2014.6.4)