梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)」(佐久間徹・二瓶社・2013年)通読(4)

《第四章 不適応行動への対応》
・一般的に言って、障害児の攻撃行動であれ破壊行動であれ、そこには強烈な敵意や憎悪、力の誇示、ステータスの上昇意図などのような大人の感情は含まれていない。繰り返される行動には必ずその背後にオペラント条件づけのメカニズムが働いていて、それが解決のカギになる。まず、生じている不適応行動をよくよく観察する。行動の目的を把握することが第一である。
・一般的に言って、①②③(愛着・過保護・甘やかし・わがまま・逆模倣)の効果が十分であれば、ほとんど不適応行動は出ないか、出てもごく軽微なのが特徴である。
【他傷行動、暴力行為】
1.思い通りにしたいための他傷行動
・思い通りにしてもらえないもで暴力を振るっている場合である。さっさと思い通りにしてやってほしい。思い通りにしてやれば暴力は振るわない。
・子どもの思い通りに応じながら暴力をなくす方法がある。反応強度分化強化法と呼んでいるものである。他傷行動で問題なのは反応強度である。繰り返される他傷行動を細かく観察すると、いささか弱めの時と強めの時がある。思い通りにしてやりながら、それにはっきりと差をつける。強めの時には、思い通りになるタイミングを1秒、2秒ほど遅らせる。暴力を引き出さない範囲の必要最小限で応じる。弱めの時には間を置かず、1秒以内に要求通りにしてやる。求めている以上に要求通りに応じる。弱々しい他傷行動の方が確実に思い通りになるとなると、他傷行動は簡単に弱々しくなり、他傷とは呼べないレベルになる。
・反応強度分化強化法は黙って実行である。理解させようとする必要はない。
・他傷行動の弱化が達成できたら、次の段階で適応的な行動の形成にとりかかる。「いや」という意思表示を尊重するのがコツである。首を振る、全身を振る、いやの声、「あー」でも「うー」でもいい。とにかく拒否の意思表示を明確にし、尊重する。尊重とは、可能な限り要求通りに応じてあげることだ。どうしても尊重できないときは、「すまないけど思い通りにはできないのよ」と言いながらゆっくり要求を拒否する。しかし、この手は乱用禁止である。最大限自分の要求をかなえてもらえるという状況で、初めて有効な手段である。何でも言いなりになっているとわがままがエスカレートすると思っている人が多いようだが、実はその通りである。わがままこそ人間の本質だと言っていいだろう。そのわがままな要求は特定の物や行為ではなく、両親の笑顔が一番に求めるものでなければならないはずである。両親の笑顔がそういうものになるのは、両親が無条件に絶対的に自分の味方だからである。その基礎が①②③なのだ。笑顔が行動を強化する一番の出来事になると、親子の幸せがやってくる。子どもが一番思い通りにしたいことが親子の笑顔の相互交換になれば、この問題は一件落着になる。
・我慢することが、苦痛に耐えることが、社会のルールに従うことが、何より大切、と子育てに変な思い込みをしていることが、障害児を不適応行動に追い込んでいるのである。
2.嫌なことの回避手段としての他傷行動
・嫌なことはしないほうがいい。この場合の他傷行動解消手段は、嫌なことを嫌でなくす、嫌なことを大好きにすればいいのだ。
・苦手な解消にはスモールステップ法が有効である。嫌なことを細かい段階に分け、一つ一つを安心、大好き、と組み合わせて反復し、嫌を解消していくのだ。
・環状線が嫌いなS子ちゃんの例:環状線のキオスクで大好きなあんパンを買う。→キオスクのベンチであんパンを食べる。5回反復する。→改札を入ってすぐのところであんパンを食べる。5回反復する。→階段を登って踊り場であんパンを食べる。5回反復する。→ホームのベンチであんパンを食べる。5回反復する。→駅に停車中の電車に乗り、発車前に降りてベンチであんパンを食べる。2回抵抗したが3回目は乗客混雑のため降りることができず次の駅まで行ってしまった。冷静に乗り、次の駅であんパンを食べて帰ってきた。その後、環状線が大好きになった。
・この手続きは、ウォルピの系統的脱感作法の障害児版である。ポイントは、嫌悪解消効果のあるものを見つけることと、適切なステップの構成である。(細かくしすぎると時間がかかる。荒っぽいと逆効果になってしまう。勘を頼りにするしかない)
3.注意引きのための他傷行動
・この場合の他傷行動は、動機は正常、表出が不適切ということになる。問題解決のカギは動機の正常性を損なわず、表出手段の適正化ということになる。
・また、人との関わりを求めての他傷行動がある。
・行動の目的は注意を引きつける、ないし、応答的反応なので、他傷行為が強いときにはひかえめに、弱いときには大げさに反応する。(反応強度分化強化法)
・他傷行動解決に続いて、自発的模倣行動をより活発にして人への働きかけのモデル提示で適切な行動の習得を進める。暴力を振るってまでも人との交流を求めているのだから、社会性の発達はどんどん進むはずである。
・(保育園、幼稚園、小学校など集団場面での場合)手続きの効果の般化範囲を広げるコツは、二人以上の大人で実施することだ。時に、二人だけだと般化範囲が二人だけに限定される場合があるが、経験的に、三人がかりでやれば般化は十分に広がり、子どもたちにも般化する。
4.試しの他傷行動
・小学生くらい以上の子どもで、比較的知的能力の高い子に見られる。他傷行為をしてみて「暴力を振るっても、セラピストや親は本当に叱ったりしないのか」とわれわれを試すのである。他傷行動の強度がそれほど激しくないのが普通で、一貫した対応をすれば長続きしないので、特別な対応を必要としない。
・試し行動は、他傷以外の行動でも見られる。「いや」「あっち」などを頻発して、大人の反応を見る。しつこくなると、大人側の耐性限度を超えて不適応行動の一つに思えてくるが、コミュニケーション機能の習得過程なので、永遠に続くわけではない。
5.フラッシュバックの他傷行動
・目的がわからない他傷行為である。
・(多分)こうした場合の他傷行動は悲しみの反応なので、膝に乗せて抱きしめて慰めるという対応、他傷行動の反応分化強化法で対処する。行動の原因を確かめようがない状態での対応なので、他傷行動が抱っこしてもらう要求行動になるかもしれない。しかし、弱々しい他傷行動で抱っこの要求ならば大いに抱っこすればいい。
*番外:噛みつきに対して、被害を最小にする噛まれ方など
・噛まれたときに噛まれた部分を逆に口へ押し込むと口が開いてしまい、噛めなくなる。
・暴れている子を、自分の身体で押さえつけるが、常に子どもとの身体の接触面に1センチ、2センチの隙間を維持する。子どもは体を動かそうとするが動けない。けれど、押さえつけられてもいない。この状態では意外に早く興奮が沈静化してくれる。
・パニックと称する泣き叫びの場合:興奮状態の波パターンを冷静に見極める。波の上昇期、頂上期はしばらく手を出さずに待ち、ピークをやり過ごして下降期にさしかかったら慰めの介入をする。大幅に妥協して可能な限り要求に応えてやる。ピークは生理的に長続きするものではなく、5秒から15秒までだ。この場合の重要ポイントは。上昇期を避けて必ず下降期に介入することである。谷部に介入するのが一番いいが、実際には谷部はとらえにくく、結果的には上昇期になってしまうので、頂上期を過ぎた時点をとらえる。常に、興奮の下降期に慰めの強化を受けるので頂点は意味がなく、パニック強度がどんどん弱くなる。


〈感想〉
・ここまでは、子どもが示す「不適応行動」のうち、「他傷行動、暴力行為」に対する対処法について述べられている。著者のいう「指導の優先順位」の第1番目に相当する。まず、取り組まなければならないのが「不適応行動」のコントロールだということである。
中でも、「他傷行動、暴力行為」は看過できない。著者は、その原因を①思い通りにならない、②嫌なことから回避するため、③他人の注意を引くため、④他人を試すため、⑤(多分)悲しみの反応(フラッシュバック)に分類し、その対処法を詳説しているが、その根本には、「反応強度分化強化法」という方法が共通している。すなわち、子どもの要求を受け入れることを前提としながら、その「受け入れ方」を工夫する。子どもに要求程度が強い場合は「間を置き」、弱い場合には「間髪を入れず」「即座に」受け入れる。その結果、子どもの要求反応は「弱く」なり、終局では「他傷行動、暴力行為」が消失する。また、嫌なことを拒否する場合には、本人の「好きな物」を与えて、「系統的脱感作法」を行う。いずれも、「きわめて有効」な方法である、と私は思う。ただし、そのためには「繰り返す」「子どもの反応を読み取る」ことが不可欠であり、こちら側の「集中力」「持続力」が問われることになるだろう。
 加えて、番外の「噛みつかれ方」「パニックへの接し方」などは、著者の経験を踏まえた「プロの技」として、大いに参考になった。試してみたい。(2014.5.14)