梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「言語発達の臨床第1集」(田口恒夫編・言語臨床研究会著・光生館・昭和49年)通読・6

【要約】
*表2.言語発達質問紙の項目の抜粋


【感想】
 以上、A~Gの項目は、“正常な発達像”を示す子どもの行動特徴であるが、著者は、さらにこれまで使ってきた「言語発達質問紙」の中から、A~Gに該当すると思われる項目を(多少の無理を承知で)抜粋している。それを(私なりに)整理すると以下の通りになる。


【要約】
A.比較的原始的な、自発的、反射的ないし生物学的な活動。
基礎 1. 物、顔などをじっと見つめる。(0:1)
基礎 3. 口のあたりに軽くふれると、くちびるを閉じてすぼめる。(0:1)
理解 1. 大きな音、思いがけない音がするとピクッとする。(0:1)
表現 1. お乳を飲んだ後やおむつを替えた後など、きげんのよい時「ウーウー」とか「アー」とかいろいろな声を出す。泣き声でない発声をする。(0:1)
  
【感想】
 以上の項目は、いずれも生後1か月頃までに現れる行動特徴であり、「見る」「吸う」「聞く」ことが“正常”である証しとされる。また「泣き声でない発声をすること」も、音声によるコミュニケーションの起点であり、将来、ことばを獲得するのに不可欠の条件である。


【要約】
B.原始的な活動が人との関係で強化され、条件づけられてきて、おとなを動かす力をもちはじめてきたもの。
基礎 4. あやすと顔を見て笑う。(0:2)
基礎 13. ガラガラをとりあげると目で追う。(0:5)
理解 2. 音のした方に首をまわす。(0:2)
理解 4. オルゴール、レコードなど好きな音、きれいな音が聞こえてくるとそれを聞いている。(0:4)
理解 5. 人の声がするとそちらの方を向く。(0:4)
理解 7. 歌を歌ったり口笛を吹いたりすると、じっと聞き入り、母の目や口もとをじっと見つめる。(0:5)
理解 9. 人のしゃべることばに耳をすまし、自分のしゃべる声にも聞き入る。(0:7)
表現 3. クックッと声をあげて笑う。(0:3)
表現 4. 人の顔をじっと見て、声を出し「オックーン、オックーン」などとお話する。(0:3)
表現 7. 一息の発声時間が長くなり、声の高さなど変化にとんでくる。(0:3)
表現 8. 不快な感情を声で表す。(むずかる、ぐずりなきをする)(0:5)
表現 10. 手にしたものを取りあげようとすると、しっかりにぎって「ウーン」と声を出して怒る。(0:5)


【感想】
 以上の項目群の共通キーワードは「人の声」であろう。周囲の事物・物音の中で、「人の声」には、特別の関心・興味を示す。また、「自分の声」にも注目、それ(発声)を「活用」して、気持ちの「やりとり」(心の交流)をするようになる。「不快」を取り除いてもらうためだけではなく「快感」(喜び)を「共有」しようとする気持ちも芽生えてくる、ということがわかる。


【要約】
C.人に対する特別な興味と、人に対する信頼・依存・愛着的つながりができ始めたときにみられる行動。
基礎 2. そばに居てもらいたいかのように泣くことがある。離れると泣く。(0:1)
基礎 9. オルゴールなどよく聞くが、人が近づくとオルゴールはそっちのけで、じっとその人の顔を見つめたりする。(0:3)
基礎 16. 母親が手をさしのべると、喜んで自分からからだをのりだす。(0:6)
基礎 21. おもちゃよりも、おかあさんが使っているもの(新聞、本、布、がま口、ほうき、せんたくばさみ、箱など)をほしがる。(0:7)
基礎 27. 他の人が食べているものを見てほしがる。(0:8)
基礎 28. 兄、姉たちの遊びをじっと見ている。(0:8)
基礎 30. テレビで人の顔が大写しになると笑いかける。(0:8)
理解 3. 母の声を聞きわける。(0:3)
理解 6. 子どもの出した音(おん)を親がまねてあげるとそれを聞いて喜ぶ。(0:4)
理解 11. 自分の名前を呼ばれるとそちらの方を向いたり、「いけません」と言われたりするとそれに反応する。(0:9)
表現 5. 目が覚めている間、人に来てもらいたくていろいろな声を出して人を呼ぶ。(
0:3)
表現 12. 親の声や他の音が聞こえてくると、それにつられて声を出すことが多くなる。(0:6)
表現 13. 要求があるとき(何か取ってほしい、そばに来てほしい、オッパイがほしい時など)に声を出しておとなの注意をひく。(0:7)


【感想】
 これらの項目は、周囲にある事物の中で、「人間」は「特別な存在」であることを知り、自分もその「仲間」であることを理解するようになってきた行動の数々である。
また、その「人間」と「人間」は「声」によって結ばれ、つながっていることも「経験的に」理解するようになる。


【要約】
D.その人とのつながりが脅かされたとき、またその恐れあるいはそれにまつわる不安があるときに見られる行動。
基礎 6. 人見知りをする。(0:6)
基礎 35. 母のあとをしきりに追い、ちょっとの間でも離れることをいやがる。(0:10)
表現 15. 大人同士で話していると、大声でワアワア言い出し、自分の方に顔を向けてもらうとニッコリする。(0:7)
表現 24. ひとりで遊んだ後、人の注意をひくためにさわぐ。(0:10)


【感想】
 この中で、「基礎6.人見知りをする」「基礎35.母のあとをしきりに追い、ちょっとの間でも離れることをいやがる」の2項目は、きわめて重要なチェック・ポイントだと思われる。濃厚な「母子関係」が十分に確立しているか、「母親に対する愛着心」が十分に育っているかを知るバロメーターになるからである。


【要約】
E.愛着関係の上に立った積極的探索ないし人への働きかけや、人とのやりとりや人の反応を楽しむ活動。
基礎 29. ママがそばでトントンと言ったり、いっしょにしたり、相手になってあげると喜ぶ。(0:8)
基礎 31. 禁じられていることをわざとして母の注意をひく。そしてアブナイアブナイ、コラコラなどと言われると、おもしろがってわざとする。(0:9)
基礎 32. あまりうるさいとき、怒った顔をするとべそをかくこともあるが、見て見ぬふりをすることもある。(0:9)
基礎 37. 人形の口に食べ物を入れたりする。(0:10)
基礎 38. いろいろなもので顔をかくしたり、障子のかげにかくれたりして「イナイイナイバー」をする。(0:10)
基礎 43. 母が泣きまねをすると心配そうにするが、笑いだすとキャッキャと喜ぶ。(
0:10)
基礎 44. おもちゃをさし出す。(0:11)
基礎 50. 家族が喜んで笑った自分の動作を何回もくり返す。(1:0)
基礎 51. 鏡の中の自分におじぎをしたり、笑いかけたり、鏡を相手に遊ぶ。(1:0)
基礎 61. おもちゃ、新聞、絵本などを手あたりしだいに取って渡してくれる。(1:0)
基礎 63. 「さわってはいけない」といつも言われているものをさわって、おとなにみつかると、それをあわててさし出したり、うしろにかくしたりする。(1:0)
基礎 66. 人に食べさせて喜ぶ。(1:3)
基礎 67. かくれんぼ、高い高い、イナイイナイバー、などの遊びを好む。(1:6)
基礎 77. ままごとのつもりでカラの茶わんの中をスプーンでかきまわし、母にさし出す。「ごちそうさま」と言うと満足する。(1:6)
理解 10. 「イヤイヤ」「シャンシャン」「いいお顔」などの芸当をする。(0:9)
理解 23. 話しかけられるのをとても喜ぶようになる。ニコニコして聞いている。(
1:2)
表現 2. 話しかけられると声を出すことがふえる。(0:2)
表現 19. 呼びかけるとたまに返事をする。(0:9)


【感想】
 以上の項目は、いずれも「人とのやりとり」を楽しむ行動である。心の中は、「おもしろい」「楽しい」「うれしい」といった「快感」で満たされていることが条件になるだろう。そのためには、まず大人の方が、その「やりとり」を楽しまなければならない。その「ゆとり」が持てるかどうか・・・。


【要約】
F.母子関係が他の人にも広がり社会化されてきていることを示す行動。
基礎 57. おとなよりも兄や姉など子どもに遊んでもらうのを喜ぶ。(1:0)
基礎 58. 人形やぬいぐるみを非常に喜び、かみついたり、抱きしめたり、ふりまわしたりして遊ぶ。(1:0)
基礎 81. 人形、ぬいぐるみ動物、座ぶとんなどを、おぶったり、抱いたり、寝かしつけたりする。(1:9)
基礎 88. 子ども同士でふざけあう。(2:0)


【感想】
 以上の項目は、いわゆる「母子分離」が可能になったことを示す行動である。子どもは、母親との「かかわり」に十分満足し、対象を「外に向かって」求めていく段階に達したことになる。わが子を保育園に預けられるか、幼稚園の集団生活に参加させるべきか、など迷っている両親にとっては、大いに参考になる項目になるだろう。要するに、これらの項目をクリアしていればまずは安心、クリアしていなければ「時期尚早」、その前にやらなければならないこと(A~Eまでの項目をクリアすること)があることを理解する必要がある、と私は思う。


【要約】
G.人へのあこがれや人の行動の模倣ないしそれを覚えた行動。
基礎 34.自分の要求するもの、欲しいものがはっきりしてきて、1本の指で目的のものを指さす。(0:10)
基礎 40. 笛、ラッパが吹ける。(0:11)
基礎 48. 大人や兄姉のすることを見てすぐまねる。(絵本を見たり、ブラシを髪にあてたり、テーブルの上をふいたりする)(0:11)
基礎 49. テレビの画面で会場の聴取者が拍手すると同じようにする。(1:0)
基礎 59. 着物を着せようとするとそれに応じる様子が見られる。(着せやすくなる)(1:0)
基礎 60. 熱い物を吹いて与えると自分でふうふう吹く。(1:0)
基礎 62. 欲しい皿を指さす。(1:0)
基礎 68. せきやくしゃみや鼻をかんだりするのをまねて喜ぶ。
基礎 72. テレビ体操などをまねて、リズムに合わせるつもりで手や足やからだを動かす。(1:6)
基礎 73. 母がそうじをしていると手を出し、掃くまねなどをする。(1:6)
基礎 80. ストローで飲める。(1:9)
理解 22. 母が電話であいさつをしている場合、または玄関であいさつをしている場合など、そばで頭を下げている。(1:0)
表現 14. 親の顔を見ながら話しことばの調子(イントネーション)をまねることがある。(0:7)
表現 18. 動作と共に「バイバイ」などと言うとまねてくり返す。(0:8)
表現 20. おとなの出す音や身近に聞こえてくる音(サイレン、ドアの閉まる音など)を直後にまねてくり返す。(0:9)
表現 22. 父や母のことばをまねして出した音(おん)をひとり遊びのときにくり返し言っていることがある。(0:10)
表現 25. スリッパやおもちゃを持って歩いては庭に投げて、「アーア」「アーア」と言う。(0:10)
表現 26. せき、舌うちなどの音をまねる。(0:10)
表現 29. おとなの出す音(おん)をまねるのがじょうずになる。(0:11)


【感想】
 以上の項目のポイントは、「憧れる」という気持ち、「まねをする」という行動だと思われるが、中でも「基礎34. 自分の要求するもの、欲しいものがはっきりしてきて、1本の指で目的のものを指さす」という行動がキー・ポイントになることは、言うまでもない。いわゆる「指さし行動」の発現である。子どもは、周囲の事物の中から「今、自分が見ているもの、欲しいもの」を《特定》し、そのこと(自分の気持ち)を他人(相手)に《伝えよう》とする。そのことができるようになるためには、まず、相手が指さした事物を、自分も「見る」ことができるかどうか、が問われる。笑い話(古典落語)の中に、相手が指さすのを見て、その指先ばかりに注目してしまい、指の方向先にある(離れた)事物を見定められないという事例がある。今、誰かと一緒にいる空間の中で、相手の気持ちと自分の気持ちを「重ね合わせる」(共有)ことができなければ、(コミュニケーションとしての「指さし行動」は成立しないのである。通常の場合、子どもはある事物を指さしながら、その事物と、相手の顔を「交互に」見ながら、「声を出す」。あるいは、「○○はどれ?」などと問いかけられて、指をさす。つまり、相手に対する「要求」や「返事」をサイン(シンボル)によって行う第1歩として、極めて重要な項目である、と私は思う。


【要約】
H.ことばや身ぶりなどの象徴を使ってのコミュニケーション行動。
基礎 45. 何事にも興味があり、ことに動物、乗り物に対しては自分から「んーんー」と指さしてうれしがる。(0:11)
基礎 51. 自分の家の前、または菓子戸棚の前に来ると、からだをゆすったり指さししたり声を出したりして教える。(1:0)
基礎 53. とどかない所に好きなおもちゃを見つけると、「んーんー」と指さしして欲しがる。(1:0)
基礎 56. 朝、パパが出かける用意をしているのを見て、自分からバイバイをする。(
1:0)
基礎 64. 絵本の中である絵を指さした時、ちょっとの間はじっとその絵を見つめる。(
1:0)
基礎 71. 何かの事物を指さし、問いかけるようにしておとなの方を見る。(1:6)
理解 12. 「ブーブはどこ?」「パパはどこ?」などと聞くと、そちらの方を見る。(0:10)
理解 13. そこにないものの名まえを言われた時でも、まわりをキョロキョロ見てさがす。(0:10)
理解 15. 電話や目覚まし時計、玄関のベルなどが鳴ると、まずそちらの方を見てからママの方を向いて知らせようとする。(0:10)
理解 17. どのような状況のときでも、「バイバイ」と言うとその意味がわかり、それに答えて手をふる。(0:11)
表現 21. 「マンマ」と言って食事の催促をする。(0:10)
表現 23. 母親や食べ物のことを「ママ」と言う。(0:10)
表現 27. 積木を積み上げられた時とか、何かおもしろいものを見つけた時など、ママの方を見て、大声を出して知らせたりする。(0:11)


【感想】
 以上の項目は、子どもが「要求」「報告」「応答」などの手段として、大人の「音声」をシンボル(ことば)として理解し、自分もサインとしての行動(発声・指さし)や言語(1語文)を使い始めたことを示す行動である。“正常発達”では、この段階に達するまでに、ほぼ1年という時間を費やすことがわかる。しかし、その「1年間」は、大人(親・家族)との不断の「かかわり」が不可欠であり、その「かかわり」が濃密であればあるほど、発達が促進される、ということがわかった。
 著者は、まず“正常発達”の基礎・基本として、A~Gの90項目を示し、さらに、それを「言語発達質問紙」の「基礎」「理解」「表現」の項目によって「補強」している。
もし、子どもの“正常発達”が妨げられていると感じたら、以上の項目を1つ1つ検証し、「かつてそういう行動が見られた」(A)、「今、そういう行動が見られつつある」(B)、「そういう行動は見られない」(C)などと「評価」することで、子どもの現状(実態)を明らかにすることができる。そして、(C)の場合について、「その原因は何だろうか」、「どうすれば(C)が(B)という状態に移行するだろうか」について考察することが大切であると、思った。(2014.4.18)