梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

市川猿之助の《前途》

 東京新聞朝刊に週刊誌「女性セブン」(小学館)の広告が載っている。そこには《独走スクープ全内幕 逮捕の奈落 市川猿之助(47) 親に手をかけたのは「セクハラ叱られたくなかった」》という見出しが記されていた。件のセクハラをスクープしたのも他ならぬ「女性セブン」であるところをみると、この小学館という出版社はよほど市川猿之助の行状が許せぬらしい。今、また猿之助が《親に手をかけた》と断定している。(「親を手にかけた」とは言わないまでも、)「親に手をかけて殺した」ということを匂わせる表現であり、それが「独走スクープ全内幕」の内容とでもいうのだろう。私がこの週刊誌を購読することは絶対にないので、想像するほかはないが、心中事件のきっかけを作ったのは「女性セブン」、そのスクープによって2人の命が失われたことは明らかである。しかし、その責任は全く感じていないようである。猿之助自身も服毒しており、落命しなかったのは「偶然」だったであろう。もし服毒が「芝居」であったら、「手をかけて殺した」あるいは「親を手にかけた」と言われてもしかたあるまい。いずれにせよ、猿之助は生物的には「生き残った」が、社会的には「死んだ」も同然だといえよう。彼の前途は全くの闇(死)なのである。従って、今後、彼が表舞台に復帰することはあり得ない。一度死にかけた人間が、絶望を克服して「もう一度生きてみよう」と思うためには、その人が死ななかったことを心底から喜んでくれる人々の存在が不可欠だが、これまでの報道・動きを見る限り、そのような人は見当たらない。市川猿之助は「死に損ないの親殺し」という烙印を貼られ、全く不本意な人生を送らなければならなくなるのではないか。
 私は、鉄道自殺を図ったが一度は助かり、二度目に遂げた人たちを知っている。今後、「女性セブン」(小学館)関係者とその読者はじめ市川猿之助にかかわるすべての人たちは、再び彼が自死を試みることがないように、細心の注意が必要である。それとも、そのまま放置して「発行部数」や「視聴率」を伸ばすことに執着するか・・・。昨今の状況では後者の確率が高いが、それは「死者に鞭打つ」ことに他ならない。
(2023.6.29)