梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

私の戦後70年・不良

 中学2年が終わる春休み、私はK君、H君と三人で、郊外・深大寺周辺の風景を写生しに行った。私以外は、油絵の具、イーゼル持参、本格的な装備だった。裏手の草原(今の神代植物園の辺り)で、楽しく絵を描き、弁当を食べ終わった頃であろうか、向こうの彼方に五、六人の人影が見えた。何気なく眺めていると、その人影がこちらに近づいて来る。たちまち私たちはその人影に取り囲まれた。中の一人が「何やっているんだ?、お前ら」と凄んだ。「今、俺たちのことを見ていただろう、何か文句があるのか」と言いながら、私の胸ぐらを掴んだ。もう一人が「違う、睨んでいたのはこいつだ」と言ってH君に殴りかかった。私たちは終始、無言・無抵抗でその場はおさまったが、以来、H君の表情は曇りだし、言動は荒れ始めた。昨年暮れ、私は55年振りにH君と再会した。「よく憶えているよ、あれからボクは悪くなってしまったんだから。ボクの原点かもしれない」、今では印刷会社の社長を務めるH君は、私に「でも、キミは立派だった。少しも動じなかったもの」と優しい言葉を残して去って行った。(2015.4.24)