梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇場界隈・太平洋健康センター・蟹洗温泉

    午後1時から、「太平洋健康センター・蟹洗温泉」で大衆演劇観劇。「劇団駒三郎」(座長・南條駒三郎)。シルバーウイークも「宴たけなわ」といった雰囲気で、劇場のある施設、子連れ家族客、サイクリングレースの中年選手、仮眠目当ての若者客などでごった返し、大浴場のなかは文字通り「芋を洗う」様相を呈する。「蟹洗」ではなく「芋洗温泉」と呼んだ方がピッタリの風情であった。割引券を利用して素泊まり1泊・2200円)は格安、不況時代の観光地として「客が殺到」するのも肯けるのだ。経営者・従業員にとっては、「うれしい限り」だろうが、利用者にとっては、どこに行っても人、人、人といった状態で、「今晩一晩、はたして安眠できるのだろうか」といった不安がつきまとう。そんな時の心がけは、以下の通りである。①貴重品は必ずフロント(または所定の場所に)預けること。②仮眠室の「場所取り」を焦らないこと。(施設側は仮眠室が満床になると、必ず別室を開放する。その別室の「壁に囲まれた空間」を寝床にすると快適に安眠できる。③入浴は、深夜または夜明け(3時~5時)、誰もいない広々とした時に行うこと。
 さて、午後0時30分、劇場・蟹座開場。施設内の雑沓に比べて、客席はまばら、なるほど、大衆演劇の「人気度もこの程度か」、何事も程々が肝腎と妙に納得してしまった。芝居の外題は、時代人情劇「五本の指」、大衆演劇の定番で、親にとって子どもは「五本の指」、どの指を切っても痛いように、どの子を亡くしても痛くないことはない、そのかけがえのない心情の描出が眼目であろう。登場人物は長兄(劇団頭取・中村駒次郎)、次兄(劇団座長・南條駒三郎)、末弟(若手・駒條竜次郎)、兄弟の母(劇団重鎮・金井保)、長兄の嫁(ベテラン女優・音羽三美)、金貸し(若手・駒條まさと)といった面々で、筋書はいたって単純、それまでは「親孝行」の「仲良し」で通っていた三人兄弟の長兄が、嫁をもらった途端に変心、佐渡の金山に働きに出た次兄の留守中に、嫁と一緒になって年老いた母と病弱の末弟を「いじめ抜く」、しかし三(五だったか?)年後、帰ってきた次兄の諫言に夫婦共々「改心」してハッピーエンドという「わかりやすさ」、親にとっては「どの子も可愛い」という慈母の風情を、八十余歳の名優・金井保が「見事」に演じきり、中高年女性客の誰もが「涙を拭いていた」。憎まれ役の長兄・中村駒次郎、嫁・音羽三美も、さすがベテランの味を出し切って「好演」、とりわけ、本来なら「老け役」音羽三美が、今月臨月を迎えて休演の女優・南條小竜(座長の配偶者)の「穴」を埋めて、着実な舞台を務めている姿が、感動的であった。いつ、どんなときでも、やらなければならないときは、きちっとやる、それができるのが役者の「実力」というもの、彼女は舞踊ショーにおいても、民話「夕鶴」の「つう」を「精一杯」「華麗に」踊って魅せたが、まさに「お見事」「御立派」と言う他はない。
 金井保を筆頭に、中村駒次郎、音羽三美といったベテラン勢が「大活躍」している劇団は、見ているだけで「元気がもらえる」、その舞台を演出・コーディネートしている座長・南條駒三郎の「長幼の序」を重んじた「先輩孝行」に敬服・脱帽する他はなかった。
(2009.9.24)