梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「ここまでわかった新型コロナ」(上久保靖彦、小川榮太郎・WAC・2020年)要約・8・《■コロナはもともと無症候の風邪》

■コロナはもともと無症候の風邪
【小川】インフルエンザもコロナも風邪だ。風邪は人類の歴史上、ずっと続いてきた。その中で悪性の流行病の記録が何年かに一度どの国の歴史書にも出てくる。
【上久保】そうした記録が変異の時だろう。記録がはっきりしているのがスペイン風邪だ。
【小川】スペイン風邪の死者は大変だった。今回のコロナウィルスも、スペイン風邪の再来かと危惧された。結果からみると、今回の新型コロナウィルスの流行は、例年のインフルエンザの死者数程度で、今年の波が収束したように見える。
【上久保】今の段階で見る限り、危険な変異に至ることはなかったようだ。コロナというのはもともと無症候の風邪だ。元気な人間は「微熱」「体調が今ひとつ」程度で済む場合が大半だ。体が弱い人だと二、三日熱が出る。幅があるがほとんどが無症候だ。
【小川】しかし、新型コロナはSARSやMERSと同じベータコロナウィルス属だ。おそろしいと思う人も出る。
【上久保】難しいところだが、徹底的に研究がなされるべきだ。私の考えを説明する。
・SARSは2002年11月に中国広東省で発生、約9か月の間に、全世界32カ国で死亡者774例を含む8096例の発症例(致死率9.6%)があり、高齢者や基礎疾患の存在が高致死率のリスク因子とされた。日本における発症例はなく、2003年7月5日にWHOにて収束宣言がなされている。2~10日程度の潜伏期間を経て、突然の発熱、震え、筋肉痛、下痢などのインフルエンザのような症状から発症する。発症者の80%において症状は改善するが、急速に肺炎や急性呼吸窮迫症候群になり増悪する人もいたので、新型コロナウィルス肺炎とよく似ていた。
・MERSは、2012年6月に60歳のサウジアラビア人から報告が始まり、中東への渡航歴のある人に発症しうる病気とされた。2017年のWHOの報告によると2070例の人が発症しており712名が亡くなっている。日本における発症例の報告はない。感染後4~14日くらいの潜伏期間を経て発症する。主な症状は発熱や、せきなどの呼吸器症状であり、やはりインフルエンザの初期症状に似ている。
・高橋淳先生は、MERSは元々、感染が広がりにくいウィルスで、集団免疫に達するレベルまでの流行は起こりえないし、SARSは流行が世界的に広がったものの不顕性感染がほとんどなく症状が強いため、症状が出てからしか他人に感染しないため、隔離による感染拡大防止が有効だったとお考えだ。
・私はその可能性もあると思うが、SAERやMERSでも集団免疫は否定できないと思っている。
【小川】それは興味深いが、大胆に聞こえる。
【上久保】症状や特徴は、一般的な風邪でみられるものだ。SARSやMERSの時は全世界でPCR検査をやっていなかった。渡航制限も行っていなかったので、無症候の感染が拡大していた考えた方がコロナ科ウィルスの感染力一般から考えると自然なのではないか。あくまで推測だが、SARSやMERSも集団免疫説をとりたいと思う。
【小川】そうすると、SRASやMERS、今回にせよ、科学の精度が上がった結果、コロナ科をウィルスを拾い上げすぎ、恐怖しすぎているのかもしれない、ということになる。
【上久保】風邪全般について、非常に研究が手薄だ。だから確かなことは言えないが、今回のように無症候でパンデミックが起こると、見えない敵なので、どこまでも恐怖が拡大してしまう。今回そういう現象が起きたのだ。エボラのように強烈な、感染したら即わかるというものは止められる。隔離して止めればいい。
【小川】激烈なもの、症状が恐ろしいウィルスは、自分が罹ったらいちころだけど、医療や行政が発達した時代には防御する様々な道がある。
【上久保】隔離したらそれで消えてしまう。でも、コロナのようなものでは隔離しようがない。症状は出にくいし感染力もやたらに高い。ビル・ゲイツも言っていたが、最もパンデミックで怖いのは、症状がないものだ。それがいつ、どれだけ広がったか、まったくわからない。気がつかないうちにもう上陸している。それが今回のようにスパイクの変異が起こって劇症化例が増えたりするとパニックになり易い。
【小川】今回、世界中でパンデミックの様相を呈したが、無症候、軽微な症状ということは、コロナウィルスそのものは、今までも毎年、何百、何千万人、うつっている。世界で言えば数十億人が罹患を続けてきた。でも気がついていない。たとえば夏風邪でちょっと
具合が悪くなるというように生じる。
【上久保】そう、コロナウィルス性の風邪だ。PCR検査をしないから、コロナと言わないできただけだ。
【小川】PCRしないで、寝て治してた。
【上久保】隔離もしない。
【小川】では、風邪と言われているものの多くがコロナウィルスという認識でいいのか。
【上久保】夏風邪とか言われているものはコロナだ。それ以外に、ロタウィルス、ノロウィルスとかがある。一般の風邪では、代表がコロナウィルス、他にライノウィルスやRSウィルスなどがある。こうした風邪でも特別な検査はなく、インフルエンザだけ検査をする。しかしPCR検査はしない。昔はワクチンも薬もなかったので、インフルエンザで亡くなる歴史上の人物も結構いただろう。


【感想】
・コロナウィルスは、2002年のSARS、2012年のMERSと同属のウィルスなので、「似ている」。だから劇症化するおそれがある。また「異なる」点は、無症状のまま他人に感染させる、目に見えない恐怖感がある。そうした不安が重なって、パンデミックの様相を呈しているということがよくわかった。
・当初、日本に上陸した新型コロナウィルスは弱毒型であり、その集団免疫によって強毒型のウィルスを撃退したとされているが、欧米、南米などで猛威をふるっているウィルスはSARSやMERSと「症状」「致死率」が「似ている」のだろうか。
・連日、公表されている(米ジョンズ・ホプキンス大の集計による)世界各国の「感染者数」「死者数」をもとに「致死率」を算出すると以下の通りであった(1月23日現在)。
■米国1.6% イタリア3.6% スペイン2.2% ドイツ2.4% フランス2.3% 英国2.6% トルコ1.0% 日本1.4% ロシア1.8% ブラジル2.4% インド1.4%。
 SARSの致死率9.6%、MERSの34.4%と比べると、「低い」値だが、高い時には10%を超える国もあったようだ。
 日本では高いときには5%台の時もあったが、この数か月は1%台で推移している。
どうしても外国の症例が気になって、「ただの風邪にすぎない」とは思えないというのが、大半の日本人の気持ちなのだろう。
(2021.1.26)