梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団鳳凰座」(座長・中野加津也)

【劇団鳳凰座】(座長・中野加津也)〈平成24年3月公演・浅草木馬館〉                                                       劇場の表看板には、演目「ふられた男」、出演「中野加津也」「今日街研」「中野飛鳥」「市川智二郎」「中野翔」「中野貴之介」「中野寿都子」「中野雅」という木札が吊されていた。座長・中野加津也の舞台は、兄・中野弘次郎の「劇団蝶々」にいた頃、一度だけ見聞しているが、詳細は記憶にない。さて今日の舞台、幕開けの「顔見せミニショー」では、座長、貴之介、翔、雅、智二郎、寿都子といった面々が、8曲の個人舞踊・組舞踊を披露するサービスぶりであった。中でも、冒頭の相舞踊「雪しんしん」(貴之介・翔)、個人舞踊「哀愁列車」(座長)は、秀逸、強く印象に残った。芝居の外題は「ふられた男」。A一家の親分(今日街研?)が、70歳になろうというのに「そろそろ嫁でももらおうか」と、対立するB一家親分(中野飛鳥)の娘(中野翔)に目をつける。その段取りを用心棒(市川智二郎)に依頼、娘を拉致しようとするのだが、間に割って入ったのが旅鴉(座長・中野加津也)。難なく娘を助けたが、その美しさに一目惚れ・・・。しかし、娘には相思相愛の情夫(中野貴之介)が居た、という筋書きで、舞台の景色は「喜劇」風。とはいえ、喜劇ほどむずかしいものはない。客を笑わせようとすればするほど、白けてしまうのだ。とりわけ、ここは関東。さりげなく淡泊で、「引いた」演技が不可欠と思われるが、その見所は少なかった。わずかに、用心棒・市川智二郎が「田村正和」を模した場面、盲目の娘(市川寿都子)が旅鴉(舞台では恋人だが、楽屋では実父)に向かって杖を振り回した場面は「絵になっていた」のだが・・・。また、男優・中野翔の「娘姿」も(超!)魅力的で、「ただならぬ実力」を窺わせていた(「真女形」の条件は揃っている)のだが・・・。そんなわけで、「喜劇」としての出来映えは「まだ発展途上」の段階であった、と私は思う。一方、第三部「歌謡・舞踊ショー」の舞台は充実していた。ベテラン・中野飛鳥、市川智二郎の個人舞踊は「会いたかったぜ」と「一本刀土俵入り」、それに歌謡までも達者にこなす。座長、中野翔、中野貴之介、三男優の女形舞踊も、それぞれが「個性的」で「気品」があり、えもいわれぬ「色香」を漂わせていた。加えて貴之介・雅の相舞踊「時代屋の恋」も絶品、まさに百花繚乱、見所満載の舞台景色であった。座長の口上によれば、「劇団蝶々」から独立して三年、「まだまだ未熟な劇団ではありますが」、《役者は揃っている》。これからは「芝居の中で」それぞれが、その「個性」をどのようにチームワークとして「結実化」させるか、呼吸、間の取り方をどのように図るか、相手を光らせるために自分は何をすればよいか等々、を追求することが課題であろう。ますますの充実・発展を期待しつつ、帰路に就いた。
(2012.3.20)