梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「正研座」(座長・浅井正二郎)

【正研座】(座長・浅井正二郎)〈平成20年4月公演・福島・蟹洗温泉蟹座〉
午前9時3分、水戸発原ノ町行きで、四ツ倉着11時。(1620円)駅前の看板を見ると四倉港の西側、海岸道路沿いに「蟹洗温泉」と表示されている。徒歩でも行けそうな距離なので、歩き出した。約15分歩いて海岸に出た。さらに10分歩くと「蟹洗温泉」の建物(鉄筋コンクリート3階建ての豪華な施設)が見えてきた。入館、受付で「宿泊できますか?」と尋ねると、「2階に仮眠室があります」と言う。入館料2000円に深夜料金1000円を加えればよいとのこと、今日はここに一泊しようと決めた。
 海辺の温泉施設とあって、ロビー、浴室からのロケーションは最高、太平洋の大海原が一望できる。午後1時から大衆演劇を観劇しようと、大広間でラーメンを食べ待機したが、15分前になっても、開幕の気配が感じられない。そればかりか、これまで座っていた客が退出する様子、そうか、芝居はここではやらないんだ、とやっと気がついた。周りを見回すと、大広間の片隅に「蟹座入口」と書いてある。矢印に従って、迷路のような通路を辿っていくと、つきあたりに劇場があった。ただし、そのままでは入場できない。フロントに行って「入場券」(300円)を購入しなければならなかった。なるほど、「演劇グラフ」の案内には〈大人1200円(観劇料のみ)*入泉料2000円(+300円で観劇も可〉と書いてある。つまり、芝居だけを観に来る客がいるということだ。公演は「正研座」(座長・浅井正二郎)。芝居の外題は、昼の部「正二郎見返り仁義」、夜の部「仲乗り新三」、舞踊ショーのラストは「津軽三味線と太鼓の掛け合いショー」。この劇団は、浅草木馬館で見聞済み。浅井正二郎、浅井研二郎、酒井二郎、竹川ひろしの舞台姿が印象に残っていたが、今回、浅井春吉(?)、浅井陽子(?)、浅井たくみ(子役)の演技が印象に残った。総じて、芝居は「水準」並、下手ではないが、これといって惹きつけるものがない。役者一人一人の実力は「水準」以上なのに、それが芝居の舞台に反映されていない。配役、演出に「一工夫」が必要だろう。特に、座長・浅井正二郎の「役割」が大きいと思う。現状では、浅井研二郎に「頼りすぎ」「任せすぎ」、座長として「出番が少ない」のはよいが、いざ「出番」の時「光るもの」が感じられない。芝居でも、舞踊でも、座長の「芸」は群を抜かなければならないが、その余裕が感じられないのである。芝居では、酒井二郎、舞踊では、竹川ひろしの「芸」とほぼ同等。だとすれば、彼らにはない「持ち味」(個性)を発揮することが肝要であろう。私の観たところによれば、芝居では、「三枚目」「汚れ役」「憎まれ役」「敵役」に徹すること、そのイメージを、舞踊ショーの「女形」で「180度転換すること」、が座長・浅井正二郎の「持ち味」であり「魅力」である。
 舞踊ショー、竹川ひろしの「女形」「立ち役」は「水準」を大きく超え「至芸」に近い。特に「立ち役」で見せる、「男の色香」は、日本一の座長・鹿島順一と肩を並べるほどの「出来映え」であった。女優・浅井陽子の「女踊り」も、所作、表情での「表現力」が豊かで「水準」以上、酒井二郎が黒紋付の衣装で踊った「越後獅子の唄」、浅井たくみ(子役)の「りんご追分」も印象に残った。
(2008.4.20)