梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団東雲」(座長・東雲長次郎)

【劇団東雲】(座長・東雲長次郎)〈平成20年7月公演・・岩瀬城総合娯楽センター〉                                   劇団紹介によれば〈プロフィール 劇団東雲 九州演劇協会所属。昭和63(1988〉年創立。父(初代・東雲長次郎)が創立した舞台の情熱を、母(太夫元・東ナナ)が継承し、二代目・東雲長次郎座長を中心に見事の開花した劇団。合い言葉は「一生懸命」という座員一丸となった明るく楽しい舞台で、連日観客を楽しませている。十八番は「役者の恩返し」ほか。座長 東雲長次郎 昭和48(1973)年12月18日生まれ。広島県福山市出身。O型。12歳で初舞台を踏み、21歳で座長就任。座長の早変わりで華麗に舞う「女形七変化」は必見。憂いを帯びた表情が印象的な座長の女形に魅了されるファンも多い。父(初代・東雲長次郎)の教えを忠実に守りながらも、時代の流れに合った舞台を常に目指している。その律儀で研究熱心な姿勢は「劇団東雲」の持ち味ともなっている〉とある。またキャッチフレーズは〈座員一丸で迫力ある夢舞台を魅せます 伝統を踏まえながらも、時代の流れに合った舞台を目指して、座員一丸となって盛り上げます。早変わりで華麗に舞う女形七変化や、熱い感動を呼ぶお芝居をご堪能ください〉であった。座員の幟にはは「東こけし」「東つくし」「東のぞみ」「東奈奈」とい名が記されていた。芝居の外題は前狂言、「三人出世」、切り狂言「孝行長屋」。いずれも九州の「芸風」で「こってり味」、主人公の「諫言」により敵役が「改心」するという「筋書き」が〈伝統を踏まえる〉ということのなるのだろう。座長・東雲長次郎は、どちらかといえば女形が「絵」になるタイプで、舞踊・芝居ともに「水準」並以上だと思う。雰囲気は現・澤村千代丸に似て、武張った立ち役は似合わない。「瞼の母」・番場の忠太郎なんかやったら、「天下一品」の舞台になるのではないか、と思った。
 「演劇グラフ」(2007年10月号)の「巻頭特集」に「劇団東雲」が取りあげられている。「メンバー紹介」では、他に、中川幸一、神城ひかり、千勝(子役)がいることがわかった。また、「孝行長屋」のあらすじも以下のように紹介されている。〈善平衛長屋に住む正吉の熱心な親孝行ぶりに感心した奉行から、大家(東のぞみ)へ長屋の名を善平衛長屋から孝行長屋へ改めるようにというお達しが届く。しかも長屋に住む条件は、自分の身寄りと暮らしていて、親孝行している者に限るというのだ。身寄りを持たないおせん(座長・東雲長次郎〉は、顔色を変える。以前、おせんから親はいないと聞いていた鉄五郎(東つくし)に追究され、おせんはついつい「親ぐらいいる」とうそをついてしまう。長屋から追い出されれば行く場所を失ってしまう。困ったおせんは、友人であるおふじ(東こけし)に相談をもちかける。おふじに事情を話していると、薄汚い恰好をした辻占売りの老婆(東奈奈)がやってくる。親代わりにはちょうどいいと考えたおせんは、三両の金を老婆に渡すと長屋に連れて行く。ところが、その老婆、実は伊勢屋の若旦那(中川幸一)の母親だったことがわかり・・・〉。若旦那、家に居づらくなって家出していた老婆(実母)を見つけると、満座の席で叱りつける。それを見ていたおせん、「実の母に向かって、そんな口の聞き方はないでしょう」と諫言、若旦那が悔い改めて終幕となった。東雲長次郎は「この役について」〈女形のお芝居で、主人公のおせんは酒もたしなむ粋な感じ江戸っ子の女性、突然、身寄りのある者しか住めなくなった長屋に住み続けるために代わりの親を捜す物語です。見どころは、自分とこけしちゃんとで掛け合いをする場面、お客さんが笑えるところですね。それと最後の泣きの場面です〉と述べている。 
 江戸の長屋で「一人暮らし」、粋で、どこか「蓮っ葉」「すれっからし」という風情が必要だが、やはり「関西人」の座長では「荷が重く」「上品」過ぎた。とはいえ、女形の芝居は「お見事」、武家の奥方、新派の芸者等々、はまり役は数えきれないに違いない。 それにしても、この「岩瀬城総合娯楽センター」という劇場は、「特異」である。観客は大半が「老人クラブ」の団体客、芝居を観るだけでなく、「カラオケ」や「料理」(飲酒)の楽しみを求めてやってくる。施設までは、JR水戸線・岩瀬駅から徒歩30分、周辺は新興住宅地で、何もない。行きも帰りも「徒歩」だったが、私以外は誰も歩いてはいなかった。この土地の「有力」な農業委員が、地域住民のために「私財を投じて」(採算抜きで)建設した「娯楽施設」に違いない。関東地区ではもう一カ所、栃木県に「上延生ヘルスセンター」(JR宇都宮駅からタクシー20分)という所があるらしい。機会があれば、訪ねてみたいと思う。
(2008.7.20)