梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「森川劇団」(座長・森川凛太郎)

【森川劇団】(座長・森川凜太郎)〈平成20年11月公演・浅草木馬館〉                                        「劇団紹介」によれば、〈プロフィール 森川劇団 創立は大正初期。関東出身だが、現在は主に関西で活躍。所属はフリー。二代目 森川長二郎(現・座長 森川凜太郎)のもと、三代目 森川長二郎(元・森川松之助)と、いなせ組(竜二、竜馬、竹之助、梅之助)が中心となり、全員が幅広い役をこなせる芸達者な老舗劇団である。三代目 森川長二郎 昭和60(1985)年9月1日生まれ。東京都出身。血液型A型。初舞台3歳。二代目森川長二郎(現・座長 森川凜太郎)のもとで、育て鍛えられてきた森川松之助が、平成19(2007)年3月29日、新開地劇場にて、三代目 森川長二郎を襲名した。伝統ある名跡を受け継ぎ、新生「森川劇団」を創造すべく、日々研鑽し精進する毎日である〉ということである。また、キャッチフレーズは〈森川劇団 全員が芸達者。どんな役でもこなします。三代目 森川長二郎といなせ組が織りなす、涙と笑いの人情芝居。二枚目,三枚目、女形、脇役、老け役。すべてをオールマイティにこなせる役者を目標に、全員があらゆる役を演じ分けて見せてくれます。竜二・竜馬兄弟、双子の松之助、竹之助、ベテラン勢そして女優陣。結束も万全の劇団です〉であった。   
 実を言えば、今日の見聞は2回目、初回は一昨日であった。その時の外題は「浅草の灯」。「関東出身だが、現在は関西で活躍」とプロフィールにもあるように、舞台の景色は「関東風」と「関西風」が入り交じり「やや混乱気味」であった。しかし、看板に偽りはなく「全員が芸達者」「結束も万全の劇団」だということは、すぐに感じ取れた。役者一人一人の「実力」は「水準以上」、ただそれがチームワークとして「結実化していない」という状態であった。舞踊ショー、若手・森川梅之介の「立ち役」の艶姿、女優・森川京香の「酒場川」(唄・ちあきなおみ)の「素晴らしさ」が強く印象に残った。「一昨日の舞台は、まだ力を出し切れていない」と思ったので、再来した次第である。
 今日の芝居の外題は「柿の木坂の兄弟」。要するに、二組の兄弟の物語である。一組めは兄・信太郎(座長・森川長二郎)と弟・進吉(森川竹之介)、二組めは、信太郎の嫁・おきく(森川京香)とその兄(森川竜二)。信太郎は元ヤクザ、今では足を洗って百姓暮らし、嫁と仲良く暮らしている。弟も今ヤクザ、足を洗ってカタギになりたいと「便り」が届いた。しかしやってきたのは、乳飲み子を抱えた進吉の嫁、事情を尋ねると、一宿一飯の恩義から出入りに巻き込まれ、あえない最後、嫁と同行したのは位牌だけだった。「できるだけのことはしてやろう」という信太郎に、嫁・おきくも快く応じる。「あなたにとって義理の妹なら、わたしにとっても同じ妹、存分に面倒を見させていただきます」。そこへ、やってきたのは、手負いの旅鴉、人に追われている、助けてくれと、おきくの顔を見れば、なんと、実の妹。そればかりではない、この兄は、夫の弟・進吉を手にかけた敵だったのだ。夫・進太郎は黙っていない。よくも進吉を亡き者にしてくれたなと、ドスを手にして斬りかかる、手負いの旅鴉よろよろと倒れ込み、信太郎、刀を振り下ろそうとするが下ろせない。嫁のおきくが手を合わせて旅鴉の命乞いをているのだから・・・。そうだった、「おまえにとっての兄なら、俺にとっても兄貴と同じ・・・」信太郎とおきく、旅鴉に物品を与えて見逃した。あわただしく旅鴉を追いかけようとする敵役のヤクザ(みやま春風、森川梅之介)と、土地の親分(森川竜馬・好演)。その様子を察して、おきくが信太郎に哀願する。「おまえさん、兄さんをどうか助けてやってください」「いやあ、そこまではできない・・・。進吉の嫁に対して義理がたたねえんだ!」だがしかし、である。勢いよく飛び出してきたのは弟・進吉の嫁、「どうか、どうか、私(と亡夫)にかまわず、助けてあげておくんなさい!」
 大詰めは、旅鴉を待ち受ける敵役たち。よろよろと登場した旅鴉に詰め寄ろうとしたとたん、「アナタタチ、ダレデスカ?ワタシ、コトバ、ワカラナーイ?」と、思いっきり「トボケル」旅鴉、その場にいた一同は(客席も含めて)ずっこけまくったが、筋書きの眼目(兄弟愛・堅気礼賛)は前幕で修了、型破りの「余興」で舞台に花を添えようとする「演出」はさすが、「全員が幅広い役をこなせる芸達者な老舗劇団である」。言い換えれば、役者の「個性」が「味」として定着しており、その場その場に応じて、いかようにもその「味」を生かすことができる「有力者」の集団である。座長を中心に、しかし、場合によっては「脇役だけでも」芝居ができるという「強み」(伝統)が、私には感じられた。
 舞踊ショーで見せた、森川竜二の女形「北の蛍」(唄・森進一)は絶品、「至芸」の域に達している。その他、全員の舞台も「水準以上」、壺にはまれば(結束が結実化すれば)、最高水準の「芝居」「舞踊」が実現できるだろう。
 芝居で、役者の「ピンマイク」を使わず、舞台上の「集音マイク」を活用していたが、そのことだけでも、この劇団の「レベルの高さ」が窺われる。(BGMのボリュームも7割方抑えられれば申し分ないと思う)
(2008.11.10)