梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団美川」(座長・美川麗士)

【劇団美川】(座長・美川麗士)〈平成20年9月公演・初日・横浜三吉演芸場〉
 「劇団紹介」によれば〈プロフィール 劇団美川 関西大衆演劇親交会所属。平成8(1996〉年2月1日創立。美川麗士座長を中心に、「新派でも歌舞伎でもない独創的な世界」を目指して活躍中。座長の実妹・美川竜、娘の花形・美川麗、芸達者なメンバーによる活気溢れる舞台が特徴である。劇団のモットーは「一致団結」。座長 美川麗士 昭和41(1996)年1月12日生まれ。大阪府出身。血液型B型。「浪速の玉三郎」と呼ばれた名優・美里英二を伯父に持つ。2歳の時、初代大川竜之助座長の「大川劇団」にて初舞台。その後、父である美川竜二と共に「美里英二劇団」に移り、美里英二が一座を退いて創立された「劇団美川」にて座長襲名。端正な容姿と明るいキャラクターに人気が集まっている〉とある。またキャッチフレーズは、〈独創的な舞台を目指して一致団結。新しくて身近なお芝居・・・ それが「劇団美川」の目指すもの。名優・美里英二を伯父に持ち、初代大川竜之助にも学んだ美川麗士座長と、妹である美川竜を中心に、劇団全員の和を大切にしながら、「型通りではない、リアリティ(真実味)のある芝居」を追求し続けている〉であった。劇団員は副座長・美川慎介、男優・美川大介、美川天道、美川勇樹、女優・美川竜、吹雪舞、美川あられ、美川久美子、子役・河内まや、河内まほ、の面々である。芝居の外題は「千里の虎」。筋書は大衆演劇の定番、木津一家を束ねる女親分は病がち、娘婿に跡目を譲ろうとして、娘・おしな(吹雪舞)に「好きな人」がいるかどうかを確かめる。親分としては虎松(座長)、政吉(美川大介)のどちらでもよかったが、娘が選んだのは政吉。そうとは知らず、虎松は酒の力を借りて(泥酔状態のまま)、「おしなさんを嫁にください」と親分に直訴したが「船に乗り遅れた」と断られ、絶望。「もう自分がいる場所はない」と一家を出て行ってしまった。途中、親分の倅・カツ坊(子役・河内まや・好演)に出会い、引き止められるが従わない。そんな時、敵役・般若一家(親分・美川天道)の用心棒・天童兵馬(副座長・美川慎介)が、女親分を暗殺。木津一家は崩壊した。般若一家の親分は、おしなにまで手を出し、自分の女房にしようとする。復讐しようとした、おしなと政吉、あやうく返り討ちになりかけたとき、虎松登場。大立ち回りの後、見事、親分の仇を討つという物語。なるほど、虎松(座長)の酔態、女親分、カツ坊との「絡み合い」等々、セリフに頼らず「所作」でみせる「実力」は、「型通りではない、リアリティ(真実味)のある芝居」を実現していたと思う。そこに、《人情味》が一枚加われば、まさに「独創的な舞台」を描出できるのではないか。
 「独創的な舞台」は、グランドショーでは数多く見聞することができた。各役者の舞踊の「実力」は「水準以上」。座長の「風の盆恋唄」「裏道の花」は天下一品、吹雪舞、美川竜、河内まやの舞台、美川天道の歌唱が印象に残ったが、何と言っても、その「独創性」は、「照明効果」に発揮されている。大衆演劇では、客席後方からの「投光」で、役者の姿を「追いかける」という手法が定番となっているが、舞台背面にスポットの円形が右往左往する景色は見苦しい。その「野暮ったさ」を、この劇団は「見事に」解消していると思った。舞台背面には、いくつもの、色とりどりの水玉模様が浮かんでは消え、浮かんでは消え、まさに「色模様」「色絵巻」の中で舞踊が展開するという風情で、ほとんど「投光スポット」の動きが「気にならなかった」のである。素晴らしい技術、画期的な演出で大きな感銘を受けた。願わくば、その「独創性」を「音響効果」の方にも発揮してもらえたら・・・。「さすりゃあ」、劇団美川の独創的な舞台は盤石なものとなるだろう。
(2008.9.1)