梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「ここまでわかった新型コロナ」(上久保靖彦、小川榮太郎・WAC・2020年)要約・26・《■抗体検査とは何か》

■抗体検査とは何か
【小川】これだけ騒ぎが世界化して長引くと、抗体を持っているという実証は必要になるか。
【上久保】安心材料としては必要かもしれない。村上康文理科大学教授の検査キットであれば、生データをもとに正確にカットオフ値を決めることはできるだろう。
【小川】村上教授の検査では、5月から8月に首都圏で、ボランティアで集めた10代から80代の362検体を使った。村上教授は約1.9%で陽性の結果が出たと発表した。これは厚労省が実施した抗体検査での、東京の抗体保有率0.1%に比べ、遙かに高い水準になる。しかし、上久保ー高橋理論では、集団免疫が日本では達成されて久しいとされている。普通抗体の保有はもう少し多く、何10%という結果が出ないとおかしいのではないか?どう考えたらよいのか。そのあたりを整理していきたい。まず、抗体キットの指標としての価値はどのあたりにあるのか。
【上久保】抗体キットは、免疫をもっているかどうかを測る主流の検査方法だ。抗体は免疫機能の中では最終兵器だから、抗体が出ていなくても、自然免疫で退治してしまえる場合もたくさんある。だから、抗体検査で充分な抗体値が出ないからと言って免疫がないとはいえない。
【小川】抗体は免疫システムの一部に過ぎない。
【上久保】免疫全体を計測するのは難しい。研究室の中で自然免疫の研究を多面的にするのは普通にできるが、キットとして実用化するのは難しい。
【小川】そうすると、獲得免疫ではなく自然免疫が新型コロナでどの程度機能しているかを調べるのは難しいという事になるか。
【上久保】何よりも食細胞が新型コロナウィルスをどれだけ分解・消化するかを見るのは、一般的な実験では無理だろう。自然免疫には「Toll-Likeレセプター」という受容体があるが、そこにどのように反応するかを見るのが難しいからだ。その上、指定感染症のウィルスを扱ってよい組織は日本国内で数カ所もない。法的な意味でも制約がある。
【小川】では、抗体検査が一番結果が出やすいということは言えるわけか。
【上久保】そうだ。一番易しい方法だ。
【小川】そうすると、検査方法が他にない中で、免疫が既にあるかどうかを測る上で、抗体検査が有力な手段なわけだ。そうした基本認識を確認した上で、村上教授のデータの読み方について話をうかがいたい。
【上久保】今回村上教授が作った抗体キットは、N蛋白とS蛋白をどちらも捕捉できるものを作っているという事だ。だから精度は大変高いと思う。
【小川】それにもかかわらず陽性率が1.9%というのはどういう事か。
【上久保】まず、IgMとIgGの事を改めて説明する。岸本寿男先生が『感染症の基礎と臨床 診断ー血清学的診断、化学療法の領域』という著書で、典型的な推移パターンを示している。初感染でIgMが先に出て、それからIgGが出て来る。これが初感染パターンだ。そして感染の極期が終わると、IgGが下がってくる。一方、再感染パターンはIgGが感染の初期から上がっている。既に感染していて、免疫を持っている場合は、IgGがいきなり出てくる。村上教授はIgMとIgGが同時に上がっているという表現をしたと思うが、それは380例の殆どが再感染パターーんである、つまり既に感染して抗体を持っているという事を意味している。
【小川】村上教授は、今回カットオフ値を決める際には、発症して入院した人の値を基準にして、陽性判定をした。
【上久保】村上教授が陽性と判定したのは、入院の症例、またはそれに相当する症例という事だ。これら高い数値を示す検体は、すべてIgMが先に出て、次にIgGが上がっている。初感染パターンだ。
【小川】村上教授は入院時の非常に高い症例の数値に合わせてカットオフ値を設定した。これは現在陽性と言える水準の抗体値を示している。だから陽性率という言い方がふさわしいという事になるし、それが一般の人々の間でも1.9%もいたというのは相当大きな割合だ。それに対して、低い値のIgGが出ているのは、現在は陽性ではない、ただしすでに抗体を持っている、既感染でももう治っているわけだから陽性率というより抗体保有率といった方がよいだろう。抗体保有率はほぼ100%だという事になる。
【上久保】そう考えてよい。IgGがずっと高い値のまま続くことはない。治癒すれば抗体値は急激に下がる。
【小川】抗体がすぐ下がるからまた感染するのではないか。
【上久保】もう治っている場合は抗体の値が低くなっているが、抗体が消えてしまったということではない。
【小川】またウィルスが来た時は?
【上久保】またIgGが上がってウィルスを退治してくれる。だから、検体に中に中程度の値が一定割合ある。感染の極期から少し時間が経ったがまだIgGが比較的多く残っている場合もあれば、再度暴露してまた上がっている瞬間という値もあるだろう。その他の人々の低い値は、感染極期が終わって抗体が静まっているところだが、でもIgGはある。だから、ほぼ全例抗体を持っていることになる。
【小川】誰も、そんなことわからないで騒いでいるのではないか。
【上久保】教科書に書いてあるレベルの話だ。


【感想】
・村上教授の抗体検査によって、日本人の大部分が新型コロナウィルスに対する抗体を持っていることが《実証》されたということだ。小川氏は「(皆は)そんなことがわからないで騒いでいる」と言い、上久保氏は「教科書に書いてあるレベルの話だ」と言う。要するに、《誰も勉強しないで騒いでいる》のが現状だということになるのだろう。「知らなかった」のならともかく、「知っていたが知らないふりをしていた」とか「知っていることを意図的に隠した」となれば罪は重い。しかも、その罪を負い、償う必要もないとなれば救いようがない。
(2021.2.14)