梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団正道」(座長・司大樹)

【劇団正道】(座長・司大樹)〈平成25年10月公演・内藤スパランド〉
座長・司大樹は弱冠18歳、父・司伸次郎、母・舞小雪(44歳)、長姉(副座長)・司春香(24歳)、次姉・司春奈(22歳)、弟・司正樹(7歳)といったファミリーに加えて、従兄弟の大沢裕二(22歳)、司裕二郎、梅千恭兵、大沢あきのといった座員で構成されている。舞台袖には「司一門」という暖簾がかかっていたので、九州の劇団であることは間違いあるまい。芝居の外題は「子別れ月夜」。博打に手を染めた弟・良蔵(座長・司大樹)の借金がきっかけで、取り立てに来たヤクザ(司裕二郎)の子分(大沢裕二)を手にかけてしまった姉・おとく(副座長・司春香)、おとくの息子(司正樹)を世話する母(司春奈・好演)との「絡み」(島流しになった姉が、8年後、病にかかり島を抜け、親子の対面をする場面)が中心で、要するに、親子・姉弟の「情愛」を眼目にした物語であったが、役者の面々はまだ「若手」、九州人情劇の「こってり」とした景色を描出するまでには、相応の時間がかかりそうではあった。とはいえ、ちょい役(居酒屋の娘)で出た母・舞小雪、仇役・司裕二郎の風情は「格別」、久しぶりに九州旅芝居の舞台模様を堪能できた次第である。副座長・司春香の口上によれば、父・司伸次郎は交通事故のため、まだ舞台に復帰できない、妹・司春奈は今回の公演後「お嫁入り」のため退団とやら・・・。まさに、世は有為転変、「人間万事塞翁が馬」だが、座長はまだ「蕾」、姉、弟、従兄弟連中との「結束」で、必ずや父母の伝統を受け継ぎ、大輪の花を開くことができるであろう、と私は確信している。終演後、劇場後部の喫煙所で煙草を吸っていると、高齢の男性客が寄ってきて曰く、「もうすぐ11月で、今年も終わり。月日の経つのは早いもんだね。あっという間に来年だ。それを6回繰り返せばオリンピック。この前は50年前、あの時の東京オリンピックはすごかった。私は集団就職で会社勤めの1年目、社長は2日間、会社を休業にしてオリンピックを観たもんだ。当時のラーメンはたしか50円だったなあ。今度のオリンピックはすごいよ。何せ技術の進歩がすごい。あれから50年も経っているんだから、どんなオリンピックになるのやら。一生のうちで2回もオリンピックが観られるなんて幸せだ。ウン。」この御仁、どうみても私と同年配、話を合わせれば終わりそうにない。「どこから来たの?」などと尋ねられたが、「ちょっと寄っただけです」などと適当な相づちを打って、早々に帰路の送迎バスに乗り込む他はなかった。私が7年後、「まだ生きている」とはどうしても思えない。一方「劇団正道」は、まさに旬!、真っ盛り!であることも間違いないであろう。
(2013.10.20)