梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「東京大衆歌謡楽団」の《魅力》・2

 「東京大衆歌謡楽団」の団員は4人兄弟である。長男が歌唱、次男がアコーディオン、三男がウッドベース、四男がバンジョーを担当する。昭和の末期から平成の初期に生まれた4兄弟で、「昭和を令和に歌い継ぐ」ことをモットーにしている。
 この楽団の特徴は、兄弟4人がそれぞれのパートを「真摯に」「誠実に」こなしている点であろうか。演奏される楽曲のレパートリーは幅広く、多彩であり、100曲余りに及ぶが、長男はその歌詞を「すべて」憶えている。次男のアコーディオンは、前奏、間奏、後奏を「忠実」に演奏し、曲の雰囲気を盛り上げる。三男のウッドベースは、リズムを正確に刻みつつ、重厚な響きを生み出す。四男のバンジョーもリズムを正確に刻みつつ、時には(間奏などで)鮮やかなメロディーラインを描出する。つまり、この4者は、つねに「不可欠な存在」であり、ひとりが欠けても本来の実力を発揮できない。だれが主役ということではなく、4者が互いに必要とし合う、絶妙なチームワークが展開するのだ。
 この楽団は、ただ昭和の歌謡曲を演奏しているわけではない。まさに「歌い継ぐ」とはどういうことか、そのお手本を見せてくれているのである。長男の歌唱は「没個性的」である。「淡々と、厳かに、昭和を歌い紡ぐ」といった風情で、聴衆は「ああ、こんな歌もあった、あんな歌もあったなあ」という感慨に浸る。その歌を聴きながら、オリジナルな歌手の作品を思い浮かべられるように、長男は「敢えて」没個性的に歌っているのではないだろうか。歌いながら「こんなにいい歌がありましたよ」と訴えているようだ。それは表現ではなく「伝達」だ。事実、私はこの楽団の演奏を通して、そのオリジナル歌手の(作品の)魅力を、数多く再発見しているのだから。
 あくまでも控えめに(誰一人目立とうとすることなく)、淡々と、厳かに、まさに4人兄弟が「歌い継ぐ」風景を目にして、聴衆もまた心中で「歌いながら」(拍子をとって)聴いている。その阿吽の呼吸を生み出す技こそが、「東京大衆歌謡楽団」の稀有な《魅力》なのである。 
(2022.1.3

東京大衆歌謡楽団2022.6.12亀戸梅屋敷ライブ当日アップ版