梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「ここまでわかった新型コロナ」(上久保靖彦、小川榮太郎・WAC・2020年)要約・14・《■専門家会議の図々しさ》

■専門家会議の図々しさ
【小川】インフルエンザとのウィルス干渉からコロナの変異型を疫学的ー仮定的に見出だしたが、物証の裏付けはないのか。
【上久保】GISAIDがある。その遺伝子データを解析して変異が起こっていることも、我々は論文で証明している。
【小川】スパイクに変異が入るのか。
【上久保】そうだ。
【小川】GISAID(ネットで世界中のウィルスがどんどん変異している事を示すデータバンク)をどう見るとわかるのか。
【上久保】変異型の種類で色が違い、欧米型とかアメリカ型をGISAIDが色を着けている。薄い黄色やオレンジ色のところが、武漢とアセアン地域のS型とK型。このサイトではゲノム解析によってORF、それからスパイクで変異がどう起こっているか、遺伝子情報が全部わかっている。それぞれ見ると一つ一つは違うが、どういう経路で行ったという流れや変異のレベルでグルーピングできる。おそらく、武漢から上海に行った、そこからイタリアで欧米型のGに変異した、それからアメリカに行ったんだろうということは追っていけばわかる。スパイクの遺伝子配列がわかっているから、ここに変異が来て、次ここに変異が来てというパターンが読める。
【小川】他の科学者たちがこれを検証するときに、変異の仕方の解析を見れば理解できるか。
【上久保】見ればわかる。
【小川】変異がS、K、Gと来ている。別の科学者が遺伝子解析を自分もやったけど、上久保ー高橋説が正しいとか、違う解析になったとか、そういう議論を見かけないがどうなっているのか。
【上久保】感染研究所が4月27日になって欧米での変異があったことを公表しているが、我々が論文で示した3月には知らなかったと思う。
【小川】今は欧米の変異型ということを政府系の専門家会議も言っているけど、先生の知見で必要だと私が思う情報は、極力政権に伝えてきた。3月26日の段階で、欧米で変異が起こって、これはRO値が従来の武漢型よりも高いと。
【上久保】RO値は日本語では「基本再生産数」と言う。あるウィルスに対して誰も免疫を持たず、ワクチンなどの感染予防策もない場合、一人の感染者が平均何人に伝染させるかを示す推定値で、ウィルスの人に対する感染力の指標となる、重要な数値だ。
【小川】先生は、3月26日に、ROが従来の武漢型よりずっと大きな欧米変異型が日本に入ってきた。だから日本でこれから感染拡大し新たな死者が出るということを強く言われた。
【上久保】丁度その頃GISAIDが出てきたので、それを解析してわかった。


■新型コロナも例年通り大量に入ってきていた
【小川】3月26日に先生が「感染が収束すると考えていたけど、新しい変異が見つかったから、欧米からの渡航はすぐに遮断してください」と言われたので、外務省に伝えたら、即断で渡航の遮断をしてくれた。その時、専門家会議は何も言っていない。それどころか、麻布や六本木のクラブでクラスターが拡大しているので、欧米の変異は関係ないと否定していた。先生はGISAIDを解析して進言してくれたが、RO値が違うことまで解析で分かるのか。
【上久保】わかる。変異の種類だけでなく、系統樹がつくられているので、どちらの変異が伝播力が強いかもわかる。ROは2月から3月の流行時のPCR検査の陽性率などで割り出した。その時のPCRの陽性率は正しかった。死亡者数も、ある時点から信憑性が落ちるが、3月までは正しいことが反映されていた。だからそれに基づいて、RO値を計測して、情報にアクセスしたらS型とK型だとわかった。


【感想】
・上久保氏らはGISAID(ウィルス変異のデータバンク)を解析して、「集団免疫説」の「物証」としているが、(それを批判している)他の専門家・科学者は、欧米の変異型を「知らなかった」(知ったのは1か月後)という。いわば上久保氏らに「教えてもらっている」のに、そのことを認めないとすれば《図々しい》ということになる。さらに、欧米型は「基本再生産数が大きく危険だ」と警告したのが上久保氏らであり、それを政権に伝えたのが小川氏だとすれば、そして政府がそれに従ったとすれば、何のための「専門家会議」なのか、存在理由がなくなるのではないだろうか、と私は思った。
(2021.1.31)