梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

77回目の《夏》

 まもなく、(私にとって)77回目の夏が終わる。ここ数年《夏籠り》を繰り返しており、また「コロナ禍」ということもあって、季節感は全く感じられなかった。体調不良による不快感だけは、つねにある。外出の機会が減ったので、脊柱管狭窄症の痛みは減っているが、胸やけ、吐き気、腹部膨張感、食欲不振は続いている。最近では「おいしい」という感覚が消失し(服薬の副作用、逆流性食道炎に加え、入れ歯の不具合もあって)、 何を食べても「味も素っ気もない」のだ。どんな食べものにも、味、におい、食感というものがあるが、すべてが「鼻についてしまう」のである。対策としてはマヌカハニーを舐め、アロエ(粉末)ジュースを飲み、漢方薬の「開気丸」「六君子湯」を服薬、カスピ海ヨーグルトも常用している。いっときは治まるが、完治することはない。
 加えて後鼻漏にともなう鼻づまり、息苦しさも、つねにある。たえず、「カッ、カッ」と口蓋にはりついた鼻汁を取り除こうとする。対策としては「鼻うがい」のかわりに、食塩水の蒸気を鼻腔内に吸い込む(「ホットシャワー」)。
 以上で、どうにか体調の安定を図っているが、すべてが「綱渡り」で、いつ異変が起きても不思議ではないほど「頼りない日々」が続いている。 
 救いは、インターネットから得る情報で、「永遠の価値」があると思われるニュースに出会うことだ。最近では、高校生の飛び降り自殺を制止しようとして、ともに転落死した56歳男性の事例があったが、さらに、以下のような貼り紙をして、小学生に弁当を提供している焼き肉店があることを知った。
《こどもたちへ おうちにごはんがなかったり おなかがすいていたりしたら いつでもおみせにおいで こども弁当 こども定食を100円でどうぞ!!(おかねがなかったらいってね) 宮よし》
《こどもたちへ!! がっこうがはじまるまでの まいにちおひる11じ30ぷんからよる7じまで こどもべんとうをはじめました。だいたい200えんで おかねがたりなかったりしても たべたいものをおみせのひとにいってみてね。おかねはあとでもいいし おとなになったときでもいいよ! おとなになったときに『宮よし』がなかったら こまっているひとのためにつかったり きふしたりしてね》
 100円~200円(場合によってはそれ以下)で提供される弁当、定食には「永遠の価値」がある。この店主もまた顕彰されることはないだろう。だが、私の寿命を延ばしてくれることはたしかである。
(2021.8.31)