梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「ここまでわかった新型コロナ」(上久保靖彦、小川榮太郎・WAC・2020年)要約・15・《■危ない国はリスクマップでわかっていた》

■危ない国はリスクマップでわかっていた
【小川】インフルエンザから統計的にこうなるというのを割り出したのが疫学。一方でGISAIDからの遺伝子の変異は実証科学だと。
【上久保】何月何日に入ってきているということは実証だ。
【小川】理解にいくつかの段階がある。まず変異があるという理解。変異を遺伝子情報から追跡できているという理解。それが集団免疫の形成とどうかかわるかという理解。さらに、変異については、日本独自の変異がある。
【上久保】日本独自の変異が生じていて、もう終わっている。どれだけ残っているか、どこで終わるかということも把握できている。
【小川】だから、本書で、具体的に説明していただきたい。欧米リスクスコアを3月下旬には出されていた。
【上久保】これは「Nature」に3月19日に投稿したスコアだ。その時点でここまでわかっている。修正はしていない。
【小川】これはインフルエンザ感染状況から割り出された新型コロナのリスクマップか。【上久保】そうだ。発表当初は、この通りになるかどうかは不明だったが、今はそのスコアを検証できる。
【小川】3月の段階で、リスクの高い国は、イタリアとスペイン、そしてイギリスがヨーロッパでも特にハイリスク、それについでフランス、ドイツだ。
【上久保】そうだ。スウェーデンは「集団免疫」の獲得を目指して緩い対策をとってきた。最悪期に150人に達した1日の死者数も、その後ゼロになる日もあり、トータル5700人くらいだが、収束が見えている。ノルウェーやフィンランドよりもリスクが高かったから、それよりもロックダウンを厳しくすべきだった。ロックダウンは感染するスピードを抑制する。スウェーデンは抑制することによって医療破綻しないようにする必要があった。逆にノルウェーとフィンランドはロックダウンする必要はなかった。リスクスコアはそういう判断に使えるので公表した。
【小川】ここまで的中率の高いスコアを3月に既にだしている。インフルエンザとの相関性から割り出した数式があるのか。
【上久保】数式がある。新日本科学というCROにその計算式を、高橋先生が登録している。インフルエンザの流行カーブの計算がわからないという質問があるが、計算は単純ではないので、詳細については新日本科学にある計算式を見て解析する必要がある。
【小川】単なる仮説だと言っている人は、数式を見ていないように見受けられる。
【上久保】理論疫学者自体が理解できていないようだ。例えば、理論疫学者たちは今回コロナのROを2.5と計算している。クラスター班の西浦教授だけでなく世界中の学者がそうだ。すでに感染していることに気づかずに、これから上陸してくると思ったからだ。武漢G型のROは5.2、欧米G型は6.99ということを我々は疫学的に計算した。
【小川】非常に高い値だ。そこまで感染力が高ければ無症候のまま大勢にうつるわけだ。そうすると、クラスター追跡で感染を防ぐなんて不可能ではないか。コロナウィルスにおいて、クラスターを追跡していれば、感染自体をストップできるということはあり得ない。
【上久保】それは無理だ。押谷仁教授や西浦博教授は、8割以上の感染者が濃厚接触者の誰にもうつしていない一方で、三密の条件が重なったところで3~5人以上うつす感染者がいて、クラスターが生じたととらえている。Re(=実効再生産数)は、ある集団でのある時点において、1人の感染者から平均何人に伝染させるかを示す推定値を指す。クラスター以外の感染者は放置していても自然収束するので、クラスターの発見と隔離に集中する方が効果的に感染抑止できるという理論建てだが、たとえROが2.5でも追跡が可能とは考えられない。ウィルスの展開は迅速だし、無症候が軸となるウィルスは感染カーブが上昇するはるか前にすでに感染爆発を起こしているものだからだ。しかも、RO=2.5の仮定がそもそも間違いで、それに先立つS型とK型の流行に気づいていなかった。8割以上の感染者が誰にもうつしていないというのは、その周囲の人達には免疫があったからだと考えるのが免疫学の常識だ。私と高橋先生は、3月25日~26日、小川先生にお願いして厚労省から西浦先生にコンタクトをとり、私どもの論文を送った。共同研究を申し込もうと思ったが、西浦先生からは拝読し、厚労省と論文を共有しますとの返信があっただけで、その後はなしのつぶてだ。
【小川】西浦氏の対応をみて、クラスター理論は状況の説明としても対処法としても破綻していると考えた。その後、西浦教授が煽動に近いような発言を繰り返し、日本のコロナ対策迷走の大きな原因となったので、大変残念なことだった。


【感想】
・上久保氏らは、2020年3月に、インフルエンザ感染状から割り出した新型コロナウィルスのリスクスコアを「Nature」誌に投稿し、ヨーロッパ、アメリカのリスクマップを公表している。そのスコアは的中しているということだ。さらに、インフルエンザとの相関性から割り出した数式を新日本科学というCROに登録している。だから、「単なる仮説」ではない。その数式を理論疫学者自体が理解していない。新型コロナのRO値を2.5と計算しているが、それは「すでに感染していること」に気づいていないからだ。実際は武漢G型が5.2,欧米G型が6.99という計算になり、感染力は非常に強い。だからクラスターの発見、隔離ででは追跡が不可能だということになる。
・上久保氏らは、論文を厚生労働省や西浦教授に送り、共同研究を申し入れようとしたが「無反応」だった。ということは、上久保氏らの「集団免疫説」を厚生労働省も分科会メンバーももすでに承知しているが、関わろうとせずに「無視」を続けていることになる。論文の内容が理解できなかったか、反論できなかったか。どちらにしても「科学的な対応」とはほど遠い態度だと、私は思う。
(2021.2.2)