梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「市川千太郎劇団」(座長・市川千太郎)

【市川千太郎劇団】(座長・市川千太郎)〈平成20年8月公演・浅草木馬館〉                                    この劇団は、昨年、十条篠原演芸場で見聞ずみ。座長の女形が初代・水谷八重子「もどき」で秀逸、「湯島の白梅」の舞台が印象的だった。「劇団紹介」のパンフレットによれば〈プロフィール 市川千太郎劇団 創立は明治初期にさかのぼり、現在の座長で6代目となる、歴史と風格のある劇団。楽しく明るい劇団をモットーとし、それが舞台上にも反映されている。座長の笑顔はもとより、座長の兄・市川良二の芝居でのアドリブ、座長の父・千草の気の利いたトークなど、あらゆる面において楽しませてくれる。特に、新派劇を得意とする。座長 市川千太郎 昭和48(1973〉年9月1日生まれ。大阪府出身。血液型B型。「市川千太郎劇団」6代目座長。市川千登勢という名で10歳で初舞台を踏む。平成5(1993)年5月25日、6代目座長・市川千太郎を襲名。10代の頃から女形を得意とし、ファンから「千様」と呼ばれる座長のスマイルにはいやしの力があると言われる。常に前向きに向上心をもって舞台に励み、日々お客様を楽しませるよう、努力している〉ということである。また、キャッチフレーズは〈その笑顔に、誰もが癒される・・・。ファンから「千様」の愛称で親しまれる千太郎座長。笑顔がとても魅力的で、微笑みかけられると、自然と微笑み返してしまう・・・。不思議な魅力を持つ劇団です。〉であった。
 芝居の外題は、(昨年見聞した舞台と同じ)「湯島の白梅」、一度観ているので他の演目を観たいとも思ったが、とんでもない。まさに斯界の最高傑作、珠玉の名品、至芸ここに極まれり、という「出来栄え」であった。開幕から閉幕まで「寸分の隙」もない座長・千太郎(お蔦)の所作と口跡、それをしっかりと受けとめる兄・良二(主税)の「侠気の気配」が、えもいわれぬ風情を醸し出す。二葉百合子の浪曲にのせた「節劇」をベースに、島津亜矢の「お蔦」まで、まさに「絵巻物」を観るような舞台の連続であった。なるほど、「歴史と風格のある劇団」「特に、新派劇を得意とする」、という看板に偽りはなかった。 1年前の舞台に比べて、座長・市川千太郎、その兄・市川良二の「実力」は大幅にアップしたように思う。その中身を一言で言えば「余裕・ゆとり・貫禄」といった雰囲気であり、「客との呼吸の合わせ方」が達者になった(背中で客の目線・呼吸を感じることができるようになった)ということであろうか。当然とはいえ、他の劇団員の「実力」も着実に向上している。開演直後のミニショーも「選りすぐり」の演目で構成されており、ベテラン市川トモジロウを中心に、若手・市川センヤ、市川ユウキ、市川智也、市川ミホらの舞姿も「水準」以上、「絵」になっていた。(特に、市川良二の「女形舞踊」は絶品)  惜しむらくは、座長の父・市川千草の姿を拝めなかったことである。
(2008.8.20)