梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

80回目の誕生日

 今日は80回目の誕生日である。この頃は、心身の衰えが激しく、身体面では長時間の外出や外食、走ることや跳ぶことなどなど、これまで難なく出来ていたことが難しくなった。また精神面でも読書、作文、複雑なことを考えることが億劫になってきた。だがしかし、さればこそ、大事なこととそうでないことの「取捨選択」に迷わなくなったことも事実である。では、大事なこととは何か。大別すると次の2点である。その一は、他人を傷つけないことである。いかなる理由があろうも、威嚇、暴行、傷害、殺人、といった行為は断じて許されない。加えて集団的な行為である侵略、戦争もまた然りである。多くの場合、戦争には「自国を守る」という大義名分が使われるが、自国を守るために、まず国民が犠牲になるのが戦争だ。戦争には正義も勝利もない。すべて敗者になるのである。モーセの十戒にも「汝、殺すなかれ」とある。大事なことの、その二は、他人を大切にすることである。他人と仲良くなることである。この世界に同じ人間は二人と存在しない以上、自分と他人は同じではない。だから、必然的に「対立」することになる。この対立をどのように乗りこえるかが、私たちの最大の課題である。お互いが相手の主張を受け容れ、接点を見つけられるかどうか。イエス・キリストは「汝の敵を愛せよ」、仏陀は「慈悲」という言葉で、そのことを説いた。しかし、この理念は、未だに実現されたことはない。その一は、自分が(威嚇、暴行、傷害、殺人といった行為を)「しない」ことで実現されるが、その二は、他人を大切に「しなければ」実現しないので、容易ではないからである。「献身」「自己犠牲」といった行為が、その二に該当するが、それを実行できる人は少ない。
 80歳を過ぎた今、大事なことは確信できたが、それでお前はこれから何をするのか。そのことが私に問われているのである。 
(2024.10.25)