梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

横綱・稀勢の里の《選択肢》

2017年7月12日(水) 晴
 大相撲名古屋場所三日目、横綱・稀勢の里は前頭二枚目・栃の心に敗れ1勝2敗となった。このまま土俵を続ければ、負け越すことは必定、たとえ勝ち越しても横綱の成績としては不本意な結果に終わるだけだろう。敗因は「左大胸筋損傷、左上腕二頭筋損傷」が全治していないことにある。そこで休場という選択もあるが、それでは先場所と同じである。稀勢の里の負傷は、おそらく力士生命にかかわる深刻な状態に違いない。はたして、以前の状態に快復できるのだろうか。私の独断・偏見によれば、横綱・稀勢の里のとるべき道はただ一つ、引退という選択である。そんなバカな、まだ横綱になったばかりなのに、日本出身の力士として、誰にも負けない強い横綱になってもらいたい、誰もがそう願っているだろう。しかし、身体がそれを許さないとすれば、潔く引退することも横綱の道なのである。そうなったとしても稀勢の里の魅力が消失するわけではない。3月場所、初横綱で初優勝した実績は燦然と輝いているのである。重傷を負いながら必死で相手を倒し、賜杯を手にすることにも難渋した、あの時の姿は誰もの脳裏にしっかりと刻まれている。恋々と地位にしがみつけばつくほど、その輝きは色褪せるのだ。「花は桜木、人は武士」という言葉もある。パッと咲いてパッと散る横綱であってこそ、名横綱と言えるのである。相手が自分より強いと感じると、張り手、かち上げなどで戦意を喪失させる。そんな戦法でいくら勝星を重ねたとしても、相撲道とは無縁である。堂々と受けて立ち、堂々と勝負する、まさに勝負は「時の運」だが、負けた時は潔く身を引く、それが稀勢の里のとるべき唯一の道ではないだろうか。