梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

『「自閉」をひらく 母子関係の発達障害と感覚統合訓練』(つくも幼児教室編・風媒社・1980年)精読・22

《2.近接受容器と遠隔受容器》
・自閉的な子どもにおける感覚障害を強調する論者の中で、デラカートは、五官をすべて同じ程度に重視している。五官とは、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚であり、平衡感覚や体性感覚、温覚、痛覚などもろもろの皮膚感覚は、すべて「触覚」というカテゴリーに包含されている。「触覚」に無差別に包含されてしまっている感覚群が、相対的に軽視されていることにもなる。
・セガンも、五分類法に従っており、平衡感覚や体性感覚を軽視している。
・ショプラーは、自閉的な子どもが遠隔受容器よりむしろ近接受容器に頼ることを指摘して、広義の「触覚」刺激による症状の改善を提唱している。
・エアーズもまた。平衡感覚、体性感覚、触覚刺激を通じて学習障害児の感覚統合をはかろうとする壮大な理論体系を構築している。
・私たちが志向している方向も、おおむねエアーズの理論に近い。基本的には、諸近接受容器の働き(遠隔受容器の働きとは対照的にしばしば過鈍である)を正常化することに重点を置き、その結果として遠隔受容器の働きの正常化へと効果が波及して行くことを期待するのである。
・オーニッツは、感覚入力の調節不全の基底に「中枢性前庭機能障害」が存在することを強調している。REM睡眠時の眼球運動群発持続の乏しさや、覚醒時における回転後の眼球震盪持続の乏しさの観察に基づいて、自閉児においては、中枢性前庭機能障害が存在するために、外側膝状態のレベルで感覚入力(とくに視覚入力)の伝達が抑制されるのではないかと推測している。「中枢神経系における興奮と抑制の不均衡が、運動と知覚の障害、ひいては、覚醒時の自閉児にみられる対人ならびに対物関係の障害と言語障害の基底にあるのではないか」(「小児自閉症 感覚ー運動統合の障害}(ラター編『小児自閉症』・文光堂・昭和53年)というのである。
・たしかに、自閉的な子どもの平衡感覚の異常は観察でき、統合訓練において平衡感覚刺激を通じた働きかけが最も重要な役割を果たしており、訓練を通じてもたらされる平衡感覚機能の正常化が他の感覚機能の正常化へと波及していく効果が認められるが、基本的障害としての感覚障害が、そのさらに基底にある前庭機能障害という単一の原因に還元可能なものであるかどうかは、今後の検討に待たなければなるまい。
【感想】
・ここで言う「近接受容器」とは、触覚、味覚のことであり「遠隔受容器」とは嗅覚、聴覚、視覚のことである。
・したがって、著者の「基本的には、諸近接受容器の働き(遠隔受容器の働きとは対照的にしばしば過鈍である)を正常化することに重点を置き、その結果として遠隔受容器の働きの正常化へと効果が波及して行くことを期待するのである」という説明は、《平衡感覚、体性感覚、温覚、痛覚を含めた触覚、味覚の働き(しばしば過鈍である)を正常化することに重点を置き、その結果として嗅覚、聴覚、視覚の働きの正常化へと効果が波及して行くことを期待する」と言い換えられる。
・要するに、エアーズの「平衡感覚、体性感覚、触覚刺激を通じて学習障害児の感覚統合をはかろうとする」方法を、自閉症児にも適用するということであろう。
・つまり、著者は《自閉的な子どもは、平衡感覚、体性感覚、触覚(温覚、痛覚など)の働きに支障が生じている。だから、「感覚統合訓練」という方法で、それらの近接受容器の働きを正常化すれば、おのずと嗅覚、聴覚、視覚など遠隔受容器の働きも正常化していくだろう》という仮説を立てていることが、よくわかった。
・オーニックは、感覚入力の調節不全の基底に「中枢性前庭機能障害」が存在することを強調しているが、著者は「今後の検討」課題だとしている。
・本章のタイトルは「母子関係と感覚統合」なので、上記「近接受容器」の問題(しばしば過鈍)と母子関係にどのような「関連性」があるのか、興味をもって次節以降を読み進めたい。
(2016.4.9)