梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

『「自閉」をひらく 母子関係の発達障害と感覚統合訓練』(つくも幼児教室編・風媒社・1980年)精読・16

《3.「子どもの不安・緊張の原因」の分析》
・『言語発達の臨床第2集』では62例にもわたる「不安・緊張の原因」が次の11項目の下に整理されている。A.視線、B.顔、C.声、D.音、E.人の接近、F.接触、G.人の動き・姿勢、H.人からの働きかけ、I.周囲の状況、J.子どもの身体的状態、K.母親の状態。
・この場合も、現象的な分類に流れていると思われるので、私たちなりに再整理を試みた。◆「子どもの不安・緊張の原因」再分類
1.身体状態の不調
・体の調子がよくない(発熱、痛み、かゆみ、空腹、ねむけなど) ・生理学的にarousal
レベルの高い状態
2.分離不安
・頼れる人が見えるところにいない ・知らないうちにお母さんがいなくなる ・母が急に離れる ・サッと背中を向ける ・子どもが近づくのを手や肩でさえぎったり、払いのけたりする ・母親のイライラ、不安 ・母の注意が自分から離れること ・他の人と話している ・忙しく家事をする ・母のいる場所に、父、兄弟、見知らぬ子どもが近づくこと ・下に赤ちゃんが生まれたこと ・毛布などいつも持っている物を取り上げる
3.要求阻止
・してほしいことがしてもらえない ・ほしいものがもらえない ・自分の思いが母に伝わらない ・「いけません」「だめ」「しなさい」「してごらん」などのような命令や一方的な語りかけをされること ・していることを禁止されること ・してしまったことについてしかられること ・たたかれる ・「何しているの?それ何?」「こんにちわ」など返答を要求するような語りかけをされること ・子どものしていることを先回りしてすること ・困った子だと母親にみられていること ・何かできることを期待されること
4.とくに同一状態保持の要求阻止
・暗い所 ・ある種の絵、色、形 ・道順がいつも違うこと ・自分で並べたものがくずれること ・物がいつもと違うように置かれていること
5.対人接触
・語調の強い人 ・大きな声 ・人の声 ・話しかけすぎること ・名前をやたらに呼びかけられること ・知らない人に声をかけられること ・目が合うこと ・人にじっと見られること ・近くから顔をのぞき込まれること ・こわい顔 ・泣き顔 ・目もとや口もとに表れるある種の表情 ・手などで顔をかくしている人 ・人が急に動くこと ・子どもと向かい合わせにすわること ・子どもの目の高さより高い所から見下ろす姿勢 ・知らない人に笑いかけられること ・不意に頭をなでられること ・身体にさわられること ・散髪、洗髪、つめ切り ・人が突然近づくこと ・人が自分の家に入ってくること
・母のいる場所に父、兄弟、見知らぬ人が近づくこと
6.強すぎるあるいは特定の感覚刺激
・突然の大きな音 ・特定の音(サイレン、かみなり、クラクション、電車の音、電話のベル、特定のコマーシャル、オートバイ・飛行機の爆音、ドアのバタンという音、レコード、テレビ、自動車の通り過ぎる音)
7.慣れない場面と人混み
・見慣れない場所 ・慣れない場面 ・人混み ・幼稚園、学校などの集団 ・家の中が騒がしいこと ・そばで子どもたちが騒々しく動きまわっていること ・知らない人が近くにいること ・特定の場所(デパート、駅のホーム、スーパーマーケット、浴室)
8.いやな記憶
・いやな記憶につながる物、場所、人、病院、たたいた人など ・前にしかられた時と同じことをしたとき
●「子どもの不安・緊張の原因」再分類
1.身体状態の不調
2.分離不安 ・相手が空間的に離れる ・相手の関心が自分から離れる ・母子関係に第三者が介入してくる ・愛着している物から引き離される
3.要求阻止 ・要求が満たされない ・要求が通じない ・相手から指示、禁止ないし叱責される
4.とくに同一状態保持が阻止されること
5.対人接触 ・聴覚的な接触刺激 ・視覚的な接触刺激 ・触覚的な接触刺激 ・接触刺激の前ぶれとなるもの
6.強すぎる、あるいは特定の感覚刺激(対人接触以外によるもの)
7.慣れない場面および人混み
8,いやな記憶


・普通なら子どもから当然喜びをもって迎えられるはずの養育刺激が、子どもによっては不安・緊張の原因となる場合があるということを田口氏らは鋭く指摘している。私たちは、保育において自分たちの意図とは正反対にかえって子どもを不安に陥れてしまうことのないように、くれぐれも留意しなければならないのである。
【感想】
・ここでは、「子どもの不安・緊張の原因」になると思われるものが8項目に分類されて示されている。それらの原因は、「自閉的な子ども」に限らず、どの子どもにも(場合によっては私たちおとなにも)該当するものがあると思われる。
・とりわけ、「2.分離不安」は、母子関係が育っている(育ち始めた、育ちつつある)子どもであれば自然に生じる類のものであろう。このような不安は、子どもの問題が改善方向に向かっている証しとして捉えるべきだと私は思う。
・それ以外の「不安・緊張」に対してどのように向かえばよいか、まさに田口理論の真価が問われる課題である。「不安・緊張」を取り除くために、原因となる「人、物、場面、動き、感覚刺激など」を《排除》すればよいか、それだけで、すべての問題が解決するとは考えられない。まして「6.強すぎる、あるいは特定の感覚刺激」「7.慣れない場面および人混み」などを完全に《排除》することなどは不可能である。(耳栓、サングラスなどで刺激を遮断することは当然としても)
・大切なことは、まず「不安・緊張」を《消去》することではなく、「不安・緊張」に対する耐性(トレランス・抵抗力)を養うことではないだろうか。田口氏らはその方法として「人にしてもらって楽しい活動」を1千時間以上「繰り返す」ことを提唱したが、そのこと自体が、逆に「不安・緊張」を高めてしまう、というジレンマに陥っているようである。次章では、その実践例が紹介され、さまざまな問題点も指摘されているとのこと、大きな関心をもって、読み進むことにする。(2016.4.2)