梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症治療の到達点」(太田昌孝・永井洋子編著・日本文化科学社・1992年)精読(6)・Ⅰ章 自閉症の概念と本態・4

【要約】
【6.自閉症の障害の今日的理解】
1)自閉症の障害の連鎖
・自閉症の障害を整理すると次のようになろう。まず、脳に障害を起こす何らかの原因がある。いくつかの原因がからみ合って、ある特定の脳機能システムに障害を起こすことになる。そのために表象機能障害が起こり、それが一方では認知の障害、他方では情緒の障害として現れる。成長とともに行動という形でこの障害が現れてくる。つまり、自閉症的行動が外界との関連で形成され、内的世界と外的世界がフィードバックし合い、いろいろな行動の異常が強まったり弱まったりする。そして、これらのすべての次元に働いている内的発達が行動を変化させる力が生じ、このフィードバック系にいっそうの複雑さを付け加えている。
2)認知と情緒の関係
・自閉症においては、認知の障害もあるし、情緒の障害もある。シンボル機能のない感覚運動期に属する自閉症の子どもたちはより自閉的に見え、年長になったり認知発達の水準が高くなったりすると自閉性は減弱する。つまり、自閉症には、認知にも情緒にも障害があり、発達の時期によって認知と情緒のどちらの側面が前景に出るかが変わっていくと考えられる。
3)認知機能と脳機能
・自閉症の脳機能障害を研究するときには、認知機能の水準をある程度合わせた対象について、共通の障害を明らかにすることが必要であろう。シンボル群機能が出現していない群と明確に認められる群とは、異なった脳機能系の障害が想定される。一方、共通の脳機
能の障害を示す一群が明確になれば、自閉症の認知、情緒、行動障害とどのような関係があるかを明らかにすることが次の課題として提起される。


【感想】 
ここでは、「自閉症の障害」が《今日的理解》によって整理されているが、その内容(結果)は、わかったようでわからない。まず、①何らかの原因→②脳機能障害→③表象機能障害→{④認知障害⇔⑤情緒障害}→⑥行動障害(言語の障害・対人関係の障害・異常行動)という連鎖が示されているが、顕在化されている事実は⑥の行動障害だけである。これまでの研究により、②では「脳波異常」(発作性異常)が「かなり高率に」見出されているが、それだけでは(科学的な)「事実」とは認定できない。(最近になり、小脳の異常がMRIで認められることがあったが「議論を呼んでいる」に過ぎない)また、③と④も、人為的な「知能テスト」によって証明されているに過ぎない。自閉症の過半数以上が、「中度精神遅滞以下」であることを証明したところで、そのことが⑥に連鎖する根拠にはならないのではないだろうか。事実、著者自身、共通の脳機能の障害を示す一群が明確になれば、自閉症の認知、情緒、行動障害とどのような関係があるかを明らかにすることが次の課題として提起される」と述べているのだから、②→③→④→⑥の連鎖は「確定」できていないということであろう。さらに、著者の論述に従えば、④と⑤は、あくまで④→⑤でなければならないはずなのに、(モデル図では)④⇔⑤となっている。つまり、自閉症の認知障害が情緒障害を引き起こすはずなのに、情緒障害が認知障害を引き起こすこともあるということになり、理論としてはきわめて「曖昧」ではないか。著者は一貫して「自閉症(の行動障害)は情緒障害に因るものではない」と主張している。だとすれば、「脳の機能障害が表象機能障害を引き起こし、それが認知障害へとつながって行動障害を引き起こす」と説明するべきだと、私は思う。そこにあえて「情緒障害」の関与を認めるということは、「自閉症の行動障害の原因として情緒障害もありうる」ということを暗示することになってしまうのではないだろうか。ただし、「自閉症の表象機能障害および認知障害が情緒障害を引き起こす」ということであれば、(考え方として)わかる。しかし、そこでもまた、その情緒障害が行動障害を引き起こすという「連鎖」になり、「自閉症は情緒障害に因るものではない」という主張は崩れてしまうのではないだろうか。著者は、「その情緒障害は外的な環境要因によるものではない。内的な表象機能障害(学習障害・学習能力の不均衡)が生活上のストレスを高め、それが行動障害となって顕在化しているのだ」と主張するだろう。「つまり、自閉症的行動が外界との関連で形成され、内的世界と外的世界がフィードバックし合い、いろいろな行動の異常が強まったり弱まったりする。そして、これらのすべての次元に働いている内的発達が行動を変化させる力が生じ、このフィードバック系にいっそうの複雑さを付け加えている」と述べているが、《内的世界と外的世界がフィードバックし合い》《すべての次元に働いている内的発達が行動を変化させる力が生じ、このフィードバック系にいっそうの複雑さを付け加えている》という文句の意味もまた「複雑すぎて」私にはわからなかった。(2014.1.7)