梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症治療の到達点」(太田昌孝・永井洋子編著・日本文化科学社・1992年)精読(1)・序

【感想】
  「自閉症治療の到達点」(太田昌孝・永井洋子編著・日本文化科学社・1992年)を読み始める。「序」(佐々木正美)によれば、〈東京大学医学部精神神経科小児部で、25年という長い年月をかけて真摯に取り組まれてきた自閉症治療の今日の到達点を示す著作が完成した。わが国で初めての本格的な臨床研究と実践の書といっても過言ではないと思う。遂にわが国でも、自閉症のオリジナルな科学的臨床の書物が出たのだという思いがする〉とのこと、期待をもって読み進めたい。佐々木氏は「序」の以下で、次のように述べている。
《序》
【要約】 
・1970年代にロンドン大学のM.Rutter教授が、自閉症の本態のなかに認知機能の発達障害を発見し、以後の治療教育に新たな指針を与えた。
・その自閉症認知機能障害の実態を詳細に吟味・検討することに本書の研究成果の生命がある。認知機能の背後にある表象機能の発達レベルとプロセスを、PiagetやWallonら先人の英知や遺産と照合しながら、自閉症児それぞれが該当するStageを設定することで明確にした。このことは、自閉症の神経心理学に関する最も本質的な領域を解明したということであり、障害を最も本質的なところから治療しようとする場合の、具体的な視点を明示したことになる。
・1989年1月東京文化会館で、アメリカ・北カロライナ州のTEACCHプログラムを指導するSchopler,Mesibov両教授を迎えて、東大精神神経科の人たちとシンポジウムが開かれた。TEACCHプログラムの方法の原則が、自閉性障害をもったままどう生きるかということであるのに対して、東大グループの治療の視点は、障害の本質的部分を治療・改善しようとするものであって、その視座の相違が討論のなかに上質の対称や争点とともに討議の調和をつくることになり、私の知る限りでは、国内で他の機会には記憶がないほど内容の豊かなシンポジウムになった。
・Mesibov教授は、自分たちがかつてTEACCHプログラムのなかで取り組んだ障害の本質を解消や改善しようとする試みは、いわば挫折したままになっているので、その困難な臨床作業に情熱を燃やす東大グループの人たちの研究や試行には厚い敬意をはらいながら豊かな成果を期待していると繰り返し言っていた。
・本書はこのように独創的研究と臨床試行の成果に基づいて著述されているが、さらに自閉症児の家族問題のほか、遺伝をはじめとする生物学的障害の側面にも、長い年月にわたる世界的な研究や経験の要点を解説しており、自閉症治療に関する広汎な視点をもった今日の到達点を示すものとなっている。


【感想】
 「東大グループの治療の視点は、障害の本質的部分を治療・改善しようとするもので」ある。障害の本質的部分とは何か、その治療法とはどのようなものか、(いわば対症療法としての)TEACCHプログラムとはどのように違うのか、また「自閉症児の家族問題」についてどのように解説しているか、などという点に注目しながら読み進めていきたい。とりわけ、すでに読了した「自閉症治癒への道」(ティンバーゲン夫妻著・田口恒夫訳・新書館・1987年)の内容と、比較・対照することに重点をおくことが、私の課題であると思った。(2014.1.1)