梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

家族の絆

 〈次男は大学中退後、十年間家にいた。「よく何もしないでいられるものだ」と感心もしたが、イライラが募った。長男が群馬から来て(次男と)一晩話し合ったことがきっかけで。彼はビル清掃の仕事を始め、七ヶ月が過ぎた。今は「ただ」毎日行ってくれればそれで十分。給料や将来性や世間体、そんなものは何もいらない、いつやめてもよい〉という父親からの投稿(東京新聞朝刊・発言)に感動した。次男の「挫折」を責め立ずに見守り続けた父、弟の進路に適切な助言を施した兄、それに応えて清掃という地道な仕事を選択した弟、三者三つ巴の「絆」が素晴らしい結果を生み出した。世間では、若者の「閉じこもり」を問題視し、「悲劇的な事件」が後を絶たない昨今なだけに、「給料や将来性や世間体、そんなものは何もいらない」という言葉が、ひときわ光彩を放っている、と私は思う。(2016.1.12)