戦後文学の思想と方法・戦後の状況・Ⅰ・《4》
日本の天皇制は、古典的絶対主義とはおのずから性質を異にしていた。すでに世界の資本主義が帝国主義段階に移行しつつある中で日本の資本主義が自立するためには、帝国主義と絶対主義が奇妙な形で混合せざるを得なかった。
〈「日本において支配している層は帝国主義者である。がしかし特殊な帝国主義者である。彼らは驚異的な富を急激に獲得した資本主義的投機者とアジア的封建的な略奪者とからなる一種独特な混合物である。」とクーシネンは1932年のコミンテルンでの報告でのべている。(略)日本においては、資本主義的発展はつねに「ブルジョアジーと封建的大土地所有者との間の妥協の道にそって進んだ。」かくて金融独占資本主義の段階に至っても封建的土地私有の意義は減退せず、まさにその両者の不可分の相互依存があった。かくて地主とブルジョアジーの同盟に対する労働者、農民の同盟、これが基本的な階級対立であった。そしてその地主とブルジョアジーの労働者、農民にたいする搾取、支配、独裁のための機構として、しかもその搾取階級の上層部にたいして相対的な独自性をもった絶対主義的天皇制が存続しつづけた。〉(『日本資本主義講座』・Ⅲ・岩波書店・143頁)
よりくわしくみるならば、日清戦争を境にした天皇制の質的変化(地主階級の権力としての天皇制から、ブルジョアと地主の同盟権力としてのそれへの移行)、文官分限令、枢密院権限の拡張、選挙法改正、政友会創立などによる天皇制官僚とブルジョアジー、地主との同盟、治安維持法による独裁などによって、天皇制はその独自性を強化した。
〈この後、資本主義は発達し帝国主義段階へ移行する、しかも依然として半封建的地主制が帝国主義の土台にあり、天皇制がその帝国主義段階の武器となり、天皇制の侵略主義が帝国主義を補うという関係が発達する。このような関係のもとでは、政権はつねに官僚軍閥の手中にある。〉(前出・147頁)
以上が、「戦前」とよばれる日本の歴史過程の大ざっぱな政治・経済的内容であった。
(1967年3月)
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