梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇場界隈・安田温泉やすらぎ

 今日からの三連休を利用して、新潟県阿賀野市にある「名湯・安田温泉やすらぎ」に赴いた。今年6月にも訪れたが、以下はその時の感想である。〈7時48分東京発上越新幹線「Maxとき305号」に乗車、新潟の「安田温泉やすらぎ」に赴いた。終点の新潟駅で下車、駅前から10時30分発の送迎バスに揺られて45分後、玄関前に到着する。そこは「源泉露天風呂にサウナ、北投石岩盤浴が楽しめる大型保養センター・ホテル」と宣伝されている。1泊5000円の素泊まりで、「ナトリウム塩化物強塩泉(中性高張性低温泉)が十二分に楽しめる。さらに1000円追加すれば「大衆演劇」の芝居見物、800円追加すれば、秋田玉川の北投石・焼山石、北海道上ノ国のブラックシリカ、新潟村杉の薬師石などなどの「岩盤浴」が楽しめるという趣向で、まさに至れり尽くせりの保養施設であった。とりわけ素晴らしいのは、従業員の「接客態度」、文字通り「おもてなし」のお手本を、いとも自然に描出し、温泉以上の温もりが感じられる。それというのも、老社長自らが先頭に立って陣頭指揮に当たっているからであろう。また、売店に並べられた新鮮な野菜、手作りの一品料理の数々も圧巻である。トマト、キュウリ、トウモロコシなどをその場で食べる客のために、包丁まで提供してくれる。土地名産の厚揚げ焼き、冷や奴、コロッケ、イカのリング揚げ等々は、出来上がり直後の美味を堪能できる、といった按配で、その心づくしに心底から感動した次第である。言葉だけでなく、本当の「やすらぎ」を体験できる、全国屈指の施設であると私は思った。〉
 その思いは、今回、再訪しても全く変わらない。むしろ、より大きくなり、「全国一位」の施設だと確信するようになった。私はこれまでに「あおもり健康ランド」(青森)、「流辿」(宮城)、「えびす座」(福島)、「カッパ王国」(福島)、「蟹洗温泉」(福島)、「なか健康センター」(茨城)、「つくばYOUワールド」(茨城)、「行田温泉茂美の湯」(埼玉)、「ホテル三光」(埼玉)、「湯ぱらだいす佐倉」(千葉)、「スパランドホテル内藤」(山梨)、「浜松バーデンバーデン」(静岡)、「みかわ温泉海遊亭」(愛知)、「八尾グランドホテル」(大阪)、「箕面温泉スパガーデン」(大阪)、「大江戸温泉物語ながやま」(石川)、「はわい温泉千年亭」(鳥取)、「苫田温泉乃利武」(岡山)に遠征・宿泊・観劇の経験があるが、①温泉(泉質)の素晴らしさ(効能)、②館内施設の清潔さ、③従業員の温かさ、④手作り料理の美味しさ、において「安田温泉やすらぎ」を超える施設はなかった、と思う。さらに、その⑤を加えれば、館内雰囲気の健全さ(利用客のマナーの良さ)である。食事処に従業員の姿はない。配膳や片付けは客の仕事であり、座布団も客が敷き、使用後は自分で片づける。売店には焼き魚、ジャガイモ、里芋の煮転がし、コロッケ、焼きイカ、鶏の唐揚げ、冷や奴、新鮮な野菜サラダなどの「皿料理」が所狭しと並べられ、客はお好みの一皿、二皿を手にすると、思い思いの席に陣取って酒宴が始まる。しかし、カラオケの喧騒に悩まされることはない。そのような他人の迷惑になる無粋な装置は設置されていないからである。イクラ丼、海鮮丼、ヒレカツ定食、天ぷらぞば、ラーメンなどは食券を購入して厨房の注文カウンターに持っていく。しばらくすると「食券○○番のお客様、お食事の用意ができました」という放送が流れ、客は配膳口まで取りに行く。セルフサービス・オンリーのシステムだが、少しも不便はない。従業員のサービスは、その分「手際の良さ」「清潔な環境」の方に注がれている。極め付きは、トイレの入口に貼り出されたポスターであろうか。そこには「《はきものをそろえる》 はきものをそろえると心もそろう 心がそろうとはきものもそろう ぬぐときにそろえておくと はくときに心がみだれない だれかがみだしておいたら だまってそろえておいてあげよう そうすればきっと 世界中の 人の心もそろうでしょう 水原ロータリークラブ」と記されてあった。事実、トイレのサンダルは常にそろっていた。ともすれば乱れがちな娯楽施設のマナーを、客同士が高め合う「教育力」の賜である。館内の営業時間は9時30分から22時まで、食事処のラストオーダーは21時と定められている。21時50分頃まで食事処の大広間は団体客、家族連れなどで大いに盛り上がっていたが、終曲「蛍の光」が流れ出すと、たちまち「手際よく」帰り支度をはじめ、22時ジャストには誰もいなくなっってしまった。お見事!、館内の「人の心がそろっている」(一糸乱れぬ)情景を目の辺りにして、私は感嘆した。加えて、ナトリウムー塩化物強塩泉(中性高張性低温泉)、北投石ラジウム岩盤浴の効能は「天下一品」で、私たちの疲れ・病・老いをやさしく癒やしてくれる。秋田の玉川温泉、茨城の千代田ラドン温泉と肩を並べる素晴らしさである。さらに、「劇場 かわら座」では、連日、大衆演劇の公演も催されている。今月は「劇団駒三郎」、座長・南條駒三郎が「歌と踊りのグランドショー」で唄った「なやみ」(詞・久仁京介、曲・遠藤実)こそ、この劇場空間にふさわしい絶品であった。「あまりにまぶしい 眼のひかり みるほどお前が 愛しくなるけど これでいいのか 間違いか 出来ればこの手で しあわせあげたい」という歌声が、今も、私の心に響いている。まさに、「安田温泉やすらぎ」は、身も心も洗われる、全国一の桃源郷(極楽浄土)であることを、私は確信したのである。
(2015.10.10)