梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇場界隈・「流辿」(青根温泉・宮城県)

 午前0時過ぎに、強い地震。テレビニュースによれば、岩手県では震度6弱とのこと、ここは宮城県、震度4程度かと思った。今日は「南劇団」の舞台をもう一度見て、仙台に戻り、そこから秋田方面(「こまち健康ランド」・公演・鹿島劇団)に向かう予定だったが、秋田新幹線が不通(もしくは遅延などの混乱状態)になれば、それは無理。今回は断念しよう。
 午前9時30分に部屋をチェックアウト、大広間(劇場)で待機。今日は「団体客」があるというので、指定席に座らされた。なるほど、10時を過ぎると、「一般客」「団体客」が続々とやってきて、客席はほぼ満席(大入り)となった。「団体客」とは、案の定、仙台市内の「老人クラブ連合会」(常連・50人程)のようで、「いつものところがいいや」などと言いながら、客席前半分を「占拠」した。メンバーの座席が決まると、たちまち瓶ビール、ウーロン茶のペットボトルがテーブルに配られ、宴会(らしき雑談)が始まる。幹事や代表が「あいさつ」しても、誰も聞いていない。幹事は、どうやら「抽選会」をいつやればいいかを諮っているようだが、メンバーは無反応、やむなく幹事の判断で「今始める」ことになった。(私を含めた)「一般客」は「どんなことをするのだろう」と興味津々で見守ったが、何のことはない、世話役が景品の入った茶封筒の番号を読み上げると、その番号に該当する会員が手を挙げ、その景品を手渡す、というだけ・・・。開演までの「暇つぶし」にはならなかった。「一般客」はその間に入浴、正午から昼食(弁当)、午後0時30分から観劇という段取りだが、「団体客」は、その場にすわったまま、雑談を間断なく続けている。まさに「老人クラブの眼目は雑談にあり」という風景であった。 午後0時40分、「南劇団」開演。芝居の外題は「故郷の兄」。筋書は、大衆演劇の定番、ヤクザ同士の喧嘩場で負けた旅鴉(南龍弥)が勝った旅鴉(南竜花)に頼み事、故郷の兄に自分のことを伝えてもらしてえ、勝った旅鴉、委細を承知して退場。二景は故郷の兄の家、土地の十手持ち(三枚目・若手男優・芸名不詳)が兄(南リュウホウ)の女房(責任者・南サヤカ)に横恋慕、「おれのものになれ」と迫るが、どうみても、兄夫婦(劇団責任者夫婦)のほうが格が上、赤子の手をひねるような「やりとり」で、何とも可笑しかった。それに気を取られて肝腎の筋書は「あいまい」、負けた旅鴉の女房(副座長・寿純)が乳飲み子を背負い、夫の遺骨を持って兄を訪ねてきたところまではわかったが、勝った旅鴉とその女房、兄との「やりとり」がどのようなものだったか、はっきりと思い出せない。「見せどころ」は、弟を亡くした兄夫婦の「愁嘆場」であることは間違いないのだが・・・。そんなわけ、で昨晩(観客はわずか10名程度)の舞台に比べて、たいそう大味な「出来栄え」になってしまったような気がする。客の「大入り」が「裏目に出た」のかも知れない。「団体客」の一人が寝転がって観劇、興行主に注意されたり、トイレに行こうとして暗幕を開けようとしたり、といったハプニングもあった。幕間で興行主があいさつ、その中で観客のマナーについてガイダンス(というよりはレクチャー)していた。「役者殺すにゃ刃物は要らぬ、欠伸の三つもすればよい」そうである。なるほど、興行主、役者など主催者側の立場・心情はよくわかる。(客に拍手を催促する役者も少なくない)
ただ「金を払って観ているのだから、(他の客に迷惑をかけなければ)どんな見方をしたってよいではないか」という客の言い分も成り立つ、と私は思う。「拍手が欲しかったら、起き上がってみてもらいたかったら、『芸を磨け』」と言いたい。私が、大衆演劇の他、どこの劇場にも行かないのは、「拍手などまっぴら」「あくびをかみ殺すだけ」「寝るしかない」といった舞台の景色が「目に見えている」からである。「どうぞ欠伸をしてください」「つまらなかったら居眠りをしてください」「寝転がって、日頃の疲れを癒してください」といった「間口の広さ」を前提として、「だからこそ、客を寝させるもんか」という、意地の世界での「一本勝負」が、大衆演劇の醍醐味なのである。「鹿島劇団」の座長・鹿島順一は「客が騒がしいのは辛抱できるが、楽屋裏での雑音は我慢ができねえ」という名台詞をアドリブで吐いたことがある。彼は、決して客に媚びない。(口上でも「心は下座に下りまして」とは言わない)また、拍手を要求しない。(「座員一人一人に公平に拍手をしてください」と頼むことあったが、でも、「そんなこと言ったって、拍手をしようがしまいが、それはお客様の御自由です」と付言することを忘れなかった。そして明るく「さあ!行ってみよう」と、自分自身を鼓舞する姿が、何とも「爽やか」で、私は忘れることができない。 
 まあ、そんなわけで、第二部・舞踊ショーでの客のマナーは向上、拍手の渦が巻き上がっていたが、出来栄えそのものは昨晩の舞台にはおよばなかったような気がした。
 午後3時、送迎バスで「流辿」出発。午後4時、仙台着。地震の影響で混雑する中、「すしや横町」で「牛にぎり」など賞味。東北新幹線で東京着、午後9時30分。
 帰宅、午後10時。
(2008.7.24)