梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「梅澤武生劇団(座長・梅澤武生)

【梅澤武生劇団】(座長・梅澤武生)〈昭和58年3月公演・浅草木馬館〉
 「終活」をしていたら、押し入れの中から古いカセットテープが15本出てきた。タイトルを見ると、いずれも「トミオ」「浅草」「十条」などと記されている。日付けは、昭和57年から59年にかけて、「梅澤武生劇団」が芝居小屋で興行していた頃の舞台模様が収録されていた。聞いていると往時の景色が、まざまざと蘇ってくる。その中に、「恐怖の3回公演」(朝・昼・晩)という1本があった。劇場は浅草木馬館、日時は記されていない。プログラムは、①楽団ショー、②芝居、③舞踊ショー、④バラエティーという4本立てであった。楽団ショーのトップは、梅澤富美男の「魔界のチャンプ」、以下、梅澤大介の「可愛いおまえ」「氷雨」、竹澤隆子の「舟唄」、梅澤修の「津軽じょんがら流れ唄」、梅澤富美男の「演歌みたいな別れでも」「夢芝居」と続き、最後は座長・梅澤武生の「役者音頭」で締めくくる。どの歌声も「旅役者の魂」が込められており、プロの流行歌手では描出できない「空気」が漂う。時折「いい声だね」「上手いよ!」などという観客の声も聞かれ、また司会の梅澤修が舞台上から、満員で入りきれない客席を整理する様子も収録されており、臨場感あふれる内容であった。芝居の外題は「団十郎囃子」。ある村の庄屋(板東多喜之助?、梅澤智也?)の息子・政二郞(市川吉丸?)が貧農の娘・お千代(役者不詳)に恋をする。政二郞は修業のため江戸に出向くことになり、帰ってきたらお千代と所帯をもつ縁談が、土地の大親分(梅澤富美男)の仲立ちで成立したのだったが・・・。江戸への壮行会の席で、酒に酔った政二郞が、けんちん鍋をひっくりかえしてお千代に大火傷を負わせてしまう。それでも貧農の兄(梅澤修)とお千代、政二郞が帰ってきたら約束どおり祝言をあげられると信じていた。しかし1年後、政二郎は江戸で知り合った芸者・小雪(辻野耕輔)を連れて立ち戻り、所帯を持ちたいという。そこで(親ばかの)庄屋、金の力で、お千代との「縁談破談」を大親分に依頼。大親分、はじめは「そんなことができるわけはない」「このおれを誰だと思う。おわっと!・・・三十六ケ村の大親分だわさ!」と強弁していたが、金をつかまされると途端に「やらせてもらおうじゃねえか」と変身する様子がなんとも面白い。この大親分、甚だ頼りない。庄屋、政二郞と連れだって貧農宅を訪れたが、なかなか破談の話を切り出せない。その「ちんぷんかんぷん」な風情がたまらなく魅力的であった。やむなく庄屋が直接談判する羽目に・・・。貧農の兄、「約束が違う」と抗ったが、庄屋は5両の手切れ金を放り投げて「縁談破談」は成立した。兄「四百四病の病より貧ほどせつねえものはない」と嘆くうち、お千代の姿が見えなくなった。女房(長島勇次)が書き置きを見つけ出し、読めば「身投げをする」とのこと、あわてて四方八方手を尽くしたが見つからない。悲嘆にくれていたが、やがて妙齢の女、お千代を伴って登場。「底なし沼で身を投げようとしているところを止まらせ、連れてきました」由、だがしかし、この女こそ、兄妹の仇敵、芸者・小雪であったとは・・・。兄から事情を知った小雪、庄屋に立ち戻り祝言をあげたが、以後は「長襦袢姿」で酒浸りの日々を繰り返す。庄屋は頭を抱え、再び大親分に「縁談破談」を依頼した。大親分「おまえさん、出てくるたんびにオレに縁談破談を頼みやがる」とぼやいたが、またまた金をつかまされて、小雪の前へ。「おわっと!・・・三十六ケ村の大親分だわさ」と迫ったが、所詮は田舎のヤクザ、江戸の芸者には刃が立たない。「いいようにあしらわれる」様子は抱腹絶倒場面の連続であった。やがて、小雪が江戸から呼び寄せた真打ち、歌舞伎役者・団十郎(座長・梅澤武生)登場、二人で「いい男」「いい女」の嘘芝居を見せつけ、呆れ果てた庄屋から、まんまと手切れ金100両を頂戴する。政二郞、「お前、私をだましたな」と詰め寄ったが「だましたのは、あなたの方。言い交わした娘さんがいたじゃないか。頂いた絞りの羽織はお返しします。新しい花嫁御寮に着せておやんなさい」。折しも流れてくる「さざんかの宿」の音曲に、芸者・小雪の「侠気」も加わって、たいそう
鮮やかな幕切れであった。舞踊ショー・バラエティー、は、「吉良の仁吉」(市川吉丸・竹澤隆子)、「花と竜・美空ひばり」(子役、吉丸・隆子の息子と娘、芸名失念)、「恋花道」(梅澤武生・梅澤富美男)、「母恋子守唄」(梅澤修?)、「他人酒」(辻野耕輔)、「恋みれん」(梅澤富美男)、「夜の新宿しのび逢い」(板東多喜之助)、「夢芝居」(梅澤富美男)等々、まさに「てんこ盛り」の内容で、飽きることはなかった。最後に観客の一言、「楽しかったね」でテープは終了している。
 時は今、平成26年・・・。ほぼ30年前(昭和50年代末期)の舞台模様であったが、それが昨日のことのように思い出されて、私の涙は止まらない。
(2014.9.19)