梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「中村鷹丸劇団」(座長・中村鷹丸)

【中村鷹丸劇団】(座長・中村鷹丸)〈平成24年10月公演・まんてん星の湯三国館〉                                ここ三国館は(3回ほど訪れているが)、温泉街の「芝居小屋」といった雰囲気はではない。景勝地・温泉郷にある「文化センター」という趣で、およそ「場末」「下町」の空気とは無縁である。周辺には「匠の里」、「与謝野晶子紀行文学館」、「猿ヶ京関所資料館」などがあり、「三国館」自体も「でんでこ座」と称して、民話と紙芝居の常設展示が開かれている。つまり、温泉郷プラス歴史・伝統・文化を「学ぶ」里なのである。では、なぜ、いったい「大衆演劇」が、こんなところで開催されるのだろうか。それは、ひとえに、この町の「見識」(の深さ)に他ならない、と私は思う。つまり、この温泉郷では、伝統的な匠の技、与謝野晶子、民話・紙芝居と、大衆演劇を「同格」のものとして受け入れているのだ。事実、どこの宿屋でも宿泊客に、三国館(大衆演劇)の割引入場券が配られる。まさに、「大衆演劇大歓迎」なのである。さて、今月の出番は「中村鷹丸劇団」。私にとっては初見聞の劇団である。座長・中村鷹丸を筆頭に、うら若い女優中心の舞台が展開されていた。芝居の外題は「小金井小次郎」。座長扮する十手持ち親分が、お尋ね者の小金井小次郎を捕まえようとして「返り討ちに遭う」という筋書きで、出来映えは「水準並」であったが、小次郎役を演じたのが、なんと(あの有名な)与ろずや柴舟であったとは・・・。「与ろずや柴舟お目通り」は、斯界舞踊ショーの定番、どこの劇団でも演目に加えている代物である。その御当人に、こんなところでお目にかかれるとは、望外の幸せであった。舞台姿は、座長から「蚊とんぼ」とからかわれるくらい、「華奢」「繊細」であったが、ひとたび歌唱・舞踊になると、いかんなく、その実力を発揮する。そういえば、この劇団の舞踊ショー、役者の舞姿は、他と比べて、どこか「ひと味」違っていた。「日舞」が主流、しかも「形」を重んじる風情が魅力的・・・、ラストに、与ろずや柴舟が「ぐでんぐでん」を熱唱、その歌声に乗せて、若々しい女優陣(座長中心)がアップテンポの「洋舞」で締めくくった演出はお見事、今日もまた大きな元気を頂いて、帰路に就くことができたのであった。
(2012.10.15)