梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団絆&劇団時遊」(座長・錦蓮&遊也)

【劇団絆&劇団時遊】(座長・錦蓮&遊也)〈平成24年5月公演・大阪梅南座〉
この劇団は昨年12月に、(二座合同で)旗揚げ、ほぼ半年が経過とのこと、私は初見聞の舞台である。芝居の外題は「天保水滸伝・笹川の花会」。配役は、洲崎政吉に澤村碧、笹川繁蔵に(座長・錦蓮)、国定忠治に(座長・遊也)、まではわかったが、飯岡助五郎(ベテラン男優・鳴門?)、小南の正助(女優?・ツナシ・センリュウ?)、は判然としなかった。筋書きは定番通り、舞台の景色も定番通りで自然体、役者面々の誠実な「舞台態度」に好感がもてた。旗揚げ以後まだ半年という「初々しさ」が魅力であり、ますますの充実発展を期待したい。舞踊ショーの特別ショーは「座頭市」、演じたのは「劇団時遊」座長の遊也、やや太めの風貌で、勝新太郎の景色は十分に描出できる。俗に「一声、二振り、三姿」と言われるが、課題は「振り」であろうか。私の独断と偏見によれば、まだ「腰が決まっていない」。座頭市の「居合い斬り」は、「棒立ち」ではできない。しかし、盲目の風情は「棒立ち」になるのが自然、そこらあたりの「かねあい」をどうするか・・・。遊也の雰囲気は、どこか「新川劇団」の新川笑也に似ている。力を抜いて、飄々とした風情を描出できれば、その魅力は倍増するに違いない・・・、などと身勝手な事を考えてしまった。さて、面白かったのは、座長・錦蓮と遊也の「大入り」談義、口上で「これまでの大入りは10回。せめて今月中に15回、いや16回・・・、いっそのこと20回にしたいねえ」、などと言ったあと、めでたく舞踊ショーの途中で「大入り」となった。この劇場の大入りは、(おそらく)30人か。ちなみに、客席の壁に張りだされている「大入袋」、4月の「劇団九州男」(座長・大川良太郎)は40枚近く、3月の「松丸家劇団」(座長・松丸家小弁太)、1月の「劇団澤村」(座長・澤村謙之助)は20~30枚(?)、はっきりしていたのが2月の「鹿島順一劇団」でナント2枚!。その数からいえば「鹿島順一劇団」は最少、さぞかし舞台模様も「最低」と思われがちだが、事実は「真逆」、私はその(大入りを目指さない)「見事さ」に、眼から鱗が落ちる思いであった。場末の侘びしい芝居小屋で、あくまで低料金、清貧に甘んじる「大衆」のために、細々と(浮き草のような)興業を続けてこそ(「大衆演劇」本来の)「価値がある」のだから・・・。「豪華絢爛」「人気」「大入り」を競い合うことは、劇団の自由である。「大入り」の数で劇団(の経営手腕)を評価することも、芝居小屋(興業主)の自由である。同時に、そうした風潮とは無縁のところで、「大衆芸能」本来のあり方を追求(芸道一筋にに精進)する「劇団」もあってよい、と私は思う。さて、旗揚げ早々の「劇団絆&劇団時遊」は、今後も「大入り」を目指すや否や?、それが問題である。
(2012.5.10)