梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団花月」(座長・一條洋子)

【劇団花月】(座長・一條洋子)〈平成23年12月公演・なか健康センターなか座〉
この劇場は、常磐線水戸駅から水郡線に乗り換えて約15分、上菅谷駅で下車、徒歩5分のところにある。通常は入館料1785円、観劇料525円のところ、震災後のリニューアル「お客様大感謝祭」(がんばっぺ!茨城)ということで、観劇料は無料であった。(近隣市町村の住民は入館料も700円)。館内は広く清潔で、浴室には「絹の湯」「壺の湯」「北投の湯」「炭酸の湯」「白湯」「サウナ」「塩サウナ」「水風呂」「ジャグジー」等々、多種多様な湯舟が揃っている。また劇場・なか座は「飲み食い処」とは別のところに設けられているので、何よりも舞台に集中できる点が優れていると思った。他に、テレビルーム、仮眠室(深夜割増料金1050円)、個室(宿泊料2名まで5250円)、岩盤浴(525円)、整骨院、ボディケア、アカスリ、エステティック、カットサロン、大食堂、パスタ&ピッツア店等々の付帯施設も揃っており、文字通り「至れり尽くせり」の環境であった。さて、肝心の「劇団花月」は九州の劇団、名前は聞いていたが、私にとっては初見聞。座員は、総責任者・一條ひろし、座長・一條洋子、二代目座長・一條ゆかり、花形・一條こま、座長の母・星てる美、男優・十條みのる、四川魁、不動明、子役・なむ・・・、といった面々である。芝居の外題は「激動を生きる男・鼠小僧」(?)。幼いとき、親に捨てられた鼠小僧次郎吉(座長・一條洋子)が、捕り手に追われながら逃げ込んだ「縄のれん」(居酒屋)の女主人(星てる美)が実の母、種違いの弟・新吉(一條こま・女優17歳)は十手持ちという筋書きは大衆演劇の定番である。この3人に絡むのが、次郎吉を慕う女泥棒(一二代目座長・一條ゆかり)、十手持ち親分の十條みのる、偽鼠小僧の四川魁、辻占売りのなむ、と役者は揃っていたが、その舞台模様は、やはり「九州風」。どちらかと言えば、「せりふ回し」に偏りがちの演出で、表情、所作の景色は「今一歩」という感があった。座長・一條洋子の風貌は「浅香光代」然、貫禄十分で申し分ないのだが、「立ち役」二枚目の青臭さ(色香)、恨み続けた親との出会いから、心が「懺悔」に変わっていく気配が、物足りない。しかし、それはあくまで私の「偏見と独断」、たった1回の見聞で断定することはできない。「唄と踊りのグランドショー」で、総責任者・一條ひろし、颯爽と登場。破門状を手にして、侠客の「侘びしさと」「憤り」を見事に描出、「ああ、芝居の舞台姿を一目拝みたかった」と、思わず溜息がもれた。不動明の歌唱は「街のサンドイッチマン」から「上海帰りのリル」へ、「明日はお立ちか」で締めくくる。今ではレコードでしか耳にできない「珠玉の逸品」を、それ以上の肉声で鑑賞できたことは望外の幸せであった。加えて、ラストの三人(一條洋子、ゆかり、こま)花魁ショー、まさに豪華絢爛、一人分の衣装は数百万、合計すれば「家一軒が建つ」そうな・・・。今日もまた、大きな元気(がんばっぺ!茨城)を頂いて帰路に就いた次第である。
(2011.12.11)