梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団芸昇」(座長・みやま昇吾)

【劇団芸昇】(座長・みやま昇吾)〈平成25年1月公演・千代田ラドン温泉センター〉
この劇団のポスターには、座員全員の顔写真と芸名が載っている。座長・みやま昇吾、花形・みやま太一、花形・みやま昇太、頭取・みやま春風、みやま陽一、みやま英雄、みやま大吾、女優・昇京華、昇こずえ、昇さつき、昇いちごの面々である。そのことで、座長が、座員一人一人を、どれだけ「かけがえのない」ものとして大切にしているか、が窺える。芝居の外題は「ふるさとのともしび」。幼い頃、母と生き別れになった流れ星の源太郎(花形・みやま昇太)は、角兵衛獅子の少年時代を経て、今では「泥棒一味」の幹部、親分(後見・みやま春風)と一緒に、ある大店にやってきた。そこの若旦那は、源太郎と名乗っているが、実は「仲間」の新吉(花形・みやま太一)、今では堅気になって、盲目の女主人(昇京華?)に「親孝行」の真似事をしている。その新吉を「一味」に取り戻すためである。新吉、「待ってくれ、俺を堅気にさせてくれ」と懇願するが親分は許さない。見かねた源太郎、間に入って「暮れ六つまでに千両用意すれば、許してやる」と、話がついた。「一味」が去った後、思案に暮れる新吉、そこへ、源太郎、「見張り役」として再登場。奥から聞こえる女主人の話。「源太郎、別れるときに渡した、お守り袋、今でも持っているだろう。私に見せてくれまいか」。新吉、「それは、大切なものだから、行李にしまってある」などとごまかすが、持っていたのは源太郎、「そうか、あの人は俺のおっかさんだ。でも、今さら親子名のりはできやしねえ。ここは一番、新吉に身代わり孝行を頼むほかはない」と決意する。やがて暮れ六つの鐘が鳴る。源太郎、やってきた親分に事情を打ち明けるが、親分は許さない。「では、やるしかない。俺はこの店を守るんだ!」。客席から「がんばれ!」というかけ声に、親分役の後見・みやま春風、「客席まで味方にしやがって、おまえの親戚か」と悔しがったが、「大丈夫、すぐに斬られますから」という「やりとり」が、何とも面白かった。見るからに「悪党」、その憎々しげな春風の風情が「堂に入ればこそ」、客を味方につけることができたのだ。事実、私の隣に座っていた高齢者の夫婦、親分の顔をにらみつけて「悪いやつだ」と舌打ちする。源太郎、親分の一太刀浴をびたが、懸命に凌いで大逆転、勝利の女神は、源太郎に微笑んだ。とはいえ、その一瞬から、源太郎は凶状持ち、親子名のりもできぬまま旅立つ、といった筋書きで、たいそう面白かった。主演は花形・みやま昇太、17歳。彼の弁によれば、「大吾(12歳)がインフルエンザのため、急遽、先生から、開演20分前に、この役を仰せつかりました。初めての役なので、お見苦しいところが沢山あったと思います。これからも精一杯、努力精進いたしますので、どうかよろしくお願いいたします」。本来なら座長の役を、誠実に代演しようとする姿勢は立派、普段から座員一人一人を大切にする、座長の薫陶が「結実化」した名舞台であった、と私は思う。幕が下りた後、件の高齢者夫婦、コーラを飲みながら、いつまでも涙を拭っていた。今日もまた、大きな元気を頂いて、岩盤浴に向かった次第である。
【余話】
インターネットの「劇団情報」に「劇団芸昇」の紹介画像が載っている。座員一同の最前列中央の○○(マスコット幸輝)に注目あれ。座長の「締めの一言」でワッと泣きだす。その「阿吽の呼吸」が素晴らしい。さすが「劇団芸昇」!今後の活躍を、ますます期待する。
(2013.1.20)