梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「おおみ劇団」(座長・おおみ悠)

【おおみ劇団】(座長・おおみ悠)〈平成20年11月公演・信州大勝館〉                                         昨日に引き続き、午後1時から信州大勝館で大衆演劇観劇。「おおみ劇団」(座長・おおみ悠)。昨日は夜の部で観客は10人程度、今日は昼の部、しかも土曜日とあってさぞかし多くの観光客が詰めかけると思いきや、なんと今日もまた10人程度(正確には13人)、わびしい限りではある。芝居の外題は「母恋鴉」、筋書は「瞼の母」の兄弟版、番場の忠太郎ではなく、ナントカの新太郎(座長・おおみ悠)が白木の骨箱(亡弟)を胸に下げて、生みの親(大川町子)を訪ねてくる。妹(おおみ美梨)との「絡み」も「瞼の母」とほぼ同じ、腕はめっぽう強いが、甘ったれで、たよりなげなヤクザの風情を、おおみ悠は「艶やかに」演じていた。二葉百合子の歌謡浪曲をBGMに使いながら、本筋の「瞼の母」を展開したら、さぞかし「天下一品」の名舞台を作り出すことができるだろう、などという思いを巡らせた。大川町子の口上では、明日は特別狂言「紺屋高尾」を演るとのこと、そのDVD(平成20年10月公演・新潟・三条東映)も販売しているとのこと、明日までは滞在できないので、さっそく購入、舞踊ショーを観て帰路についた。  帰宅後、DVDの「紺屋高尾」視聴。筋書は「鹿島順一劇団」の台本とほぼ同じ。配役は、座長・「紺屋・久蔵」、おおみ美梨・「高尾」、大川町子・久蔵の母、近江ケンタロウ・久蔵の叔父、そこまでは誰もが納得できる。問題は、「鼻欠けおかつ」を誰が演じるか。鹿島劇団では名優・蛇々丸、「劇団武る」では座長・三条すすむ、「南條隆とスーパー兄弟」では龍美麗というように、「実力者」「人気者」の 「はまり役」(腕の見せどころ)だからである。DVDの画面を観て驚いた。な、な、なんと、まだ12歳前後の、おおみだるまが演じているではないか。景色は悪くない。とはいえ、その「あわれで」しかも「コミカルな」風情を描出するには「荷が重すぎ」た。要は、この芝居の眼目が奈辺にあるか、という「解釈」の問題(違い)であろう。「鼻欠けおかつ」という存在が、「ほんのちょい役」であるか、それとも「高尾太夫」に次ぐ重要人物であるか、久蔵の心底を測る「リトマス試験紙」としては、なくてはならぬ存在だと、私は思うのだが・・・。将来、劇団を背負って立つおおみだるま、ではある。今のうちから経験を積むことも大切、その意向は痛いほどわかるが、当面は花形・三花れい、または大川町子あたりが「お手本」を示す段階ではないだろうか。  座長の久蔵、美梨の高尾が「絵になっていた」だけに、「鼻欠けおかつ」の「存在感」で「舞台」の空気を「重厚」かつ「洒脱」にできたなら、何処に出してもおかしくない作品になったであろう。
(2008.11.5)