梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団大川」(座長・椿裕二)

【劇団大川】(座長・椿裕二)〈平成21年7月公演・大宮健康センターゆの郷〉                                      座長・椿裕二は、初代・大川竜之助がもうけた四兄弟の中の一人、長兄は大川龍昇(二代目・大川竜之助)、末弟は三代目・大川竜之助であり、間に紅あきら、椿裕二がいる、ということになる。この劇団の舞台は、大阪・オーエス劇場で見聞済み、その時の大川龍昇の舞台姿(舞踊・「お吉物語)が忘れられず、来場したのだが、なぜか、彼の姿はなく、若手中心の舞台になっていた。芝居の外題は「横浜(ハマ)の狼」で、要するに、暴力団内「内輪もめ」の物語、若い衆が妹のために脱退しようとするが、若い組長(大川忍)は、それを許さない。しかし、幼時に別れた実母と再会、その諫言によって改心、組を解散して閉幕、という筋書で、「人間、どんなにいい格好をしていても、心が腐っていてはどうにもならない」という眼目が、わかりやすく描出されていた、と思う。座長は、若い組長の父親が服役していたときの「同房仲間」といった「ちょい役」に徹していたので、その景色・風情を十分に堪能することは出来なかったが、何と言っても三代目・大川竜之助の兄であり、「実力者」であることは間違いない。舞姿、歌唱も「いずれ菖蒲か杜若」、三代目とは甲乙つけがたい出来栄えであった。加えて、歌唱後の口上(コメント)が面白かった。「私は大衆演劇の役者、商業演劇の大舞台はめざしません。梅澤富美男、松井誠、早乙女太一、みんな大衆演劇の役者とは言えません。そして、弟まで・・・。いずれにせよ、私自身、決して大劇場に行くことはありませんので、皆さん、安心してください。と言っても、お呼びがかからないか?」と軽妙に語って笑わせる。また、「うちの芝居は《ヤマをあげません》。あのやり方はもう古い。今の若い人たちには受けないんです。見てご覧なさい。今日のお客様だって《二十代の方》(?)ばっかりじゃあないですか」「芝居の主役は、できるだけ《花形》《若手》にまかせようと思います」といった姿勢に共感がもてた。舞踊ショーラスト、洋舞(ダンス)も「年齢に関係なく」役者全員が洋服姿で登場、激しい「振り」を懸命に披露する様子を観て、この劇団の「可能性」「展望」が大きく開けるだろう、と私は思った。
 終わりに一言、斯界の名人・大川龍昇は何処へ行ってしまったのだろうか?
(2009.7.10)