梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「中村錦十喜劇団」(座長・中村錦十喜)

【中村錦十喜劇団】(座長・中村錦十喜)〈平成21年9月公演・千代田ラドン温泉〉                                                                         座長の話(口上)からわかったことは以下の通りである。①座長は昭和31年、長崎で生まれた。②座長の家は「曾お婆さん」の時代から、代々「役者稼業」を引き継いでいる。③男優・中村喜童は19歳、座長の息子である。④女優・中村琴海は20歳、座長の娘である。④今回は、2年ぶりの来演である。⑤昨日は「初日」だというのにお客さんが少なかった。⑥ここは劇団員の宿泊所が遠いので、準備が大変である。ざっくばらんな口調で、すぐに客との「間合い」を合わせ、なごやかな雰囲気をつくりだす「技」はさすがであった。芝居の外題は「海の狼」。6人の船子を連れて嵐の海に乗り出した漁師・常蔵(中村喜童)は、あえなく「遭難」、船子は全員が水死、しかし、なぜか常蔵だけは行方不明に・・・。その女房・お玉(中村琴海)は船子の遺族から責められて「身投げ」をしようとする。それを助けたのが常蔵の親友・寅さん(座長・中村錦十喜)だった。以来三年、今ではお玉と寅さんは「夫婦」ということに・・・。だが、この「夫婦」、なんともしっくりこない。それもそのはず、お玉は未だに常蔵の「生還」を信じて疑わないのだから。治まらないのは寅さんで「日にち毎日酒浸り」、家の修繕まで伯父さん(三波たか子)に手伝わせる有様。そんなところに、案の定、常蔵が帰宅。寅さん、泣く泣くお玉を「手放す」という結末で、眼目は、寅さんの「心優しき人情」の描出にあるのだろう。さすが、座長の舞台姿、表情と所作だけで「喜怒哀楽」の機微を表せる。思わず、客席から「寅さん、頑張れ!」「お玉も返してあげな!」「座長、立派だよ!」等々、思い思いの声がかかる、なんとも和気あいあいの終幕となった。登場人物4人だけで演じきってしまう座員の実力は半端ではない。しかも、主役の寅さんは父、相手役も常蔵は息子、女房・お玉は娘、もしかして伯父さん役は母?(かどうかは定かではないが)、いずれにせよ小家族中心の「ファミリー劇団」といった構成だが、一人一人の「実力」は水準以上(どこの劇団でも立派に通用する)、とりわけ中村喜童、琴海(もう一人いるのかな?劇場に掲げられている幟には「中村三兄弟」と記されているものがあった)姉弟の「年のわりには貫禄十分」「しかし斬新な」舞台姿には舌を巻く、今後の成長が楽しみである。
(2009.9.2)