梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団秀」(座長・千澤秀)

【劇団秀】(座長・千澤秀)〈平成22年4月公演・千代田ラドン温泉センター〉                                                               芝居の外題は「大江戸の屋根(空?)の下」。筋書は大衆演劇定番の兄弟物、早くに親を亡くし、これまで助け合って育ってきた兄(座長・千澤秀)と弟(飛雄馬)、めでたく弟がある娘と祝言をあげることになっていたのだが、娘の父親が病気でその治療代に10両が要るという。弟はその10両を調達すると約束するが算段が立たない。やむなく知り合いの大店で借りようとするのだが断られ、小判を強奪しようと揉み合っているうちに大店の従業員(芸名不詳の若手女優)を刺殺。何も知らない兄、昔からお世話になっている十手持ちの女親分(芸名不詳のベテラン女優)が、証拠(犯人遺留品)の「片袖」を持ってやってくる。その「片袖」は、自分が弟のために買ってやった代物の一部、もしやと思っていた不安が的中、弟は犯行を自白した。しかし、祝言を控えた弟を突き出すわけにはいかない。やむなく、弟の身代わりとなって曳かれていく兄・・・、というお話だが、まだ各役者の「実力」は発展途上、かろうじて座長、芸名不詳のベテラン女優が「水準並」という出来栄えであった。舞台終了後の「岩盤浴休憩処での対話」が面白かった。従業員「こんどの劇団はどんなもん?」客(70歳代男性)「まあ、座長ともう一人くらいかな、上手いのは・・・」従業員「舞踊ショーが、若者向きの曲ばかりだから、お客さんに合わせた方が良いって言ったんだけど」客「幼稚園のお遊戯みたいなもんさ」従業員「だってお客さんはお年寄りばっかりだもんね。今日は、演歌っぽい曲を取り入れていたんじゃなあーい?」客「・・・?」あとは会話が続かなかった。概して、この劇場の魅力は、観劇後の「岩盤浴」、どんな劇団でもそれ以上の舞台を望むのは酷というものであろう。ただ一点、掘り出し物があった。それは、若手男・女優の相舞踊である。乳飲み子(人形)を背負った若妻が、「午前様」を重ねる亭主を「待ち焦がれ」、飲んだくれて帰ってきた亭主と「絡み合う」コミカルな風情が、何ともフレッシュで微笑ましく、「絵になっていた」、と私は思う。昭和の名曲「ああそれなのに」(唄・美ち奴)の現代(平成)版とでもいえようか・・・。
(2010.4.20)