梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「旧約聖書」通読・《創世記》・第44章

■第44章
・さてヨセフは家づかさに命じて言った。「この人々の袋に、運べるだけ多くの食糧を満たし、めいめいの銀を袋の口に入れておきなさい。またわたしの杯、銀の杯をあの年下の者の袋の口に、穀物の代金と共に入れておきなさい」。家づかさはヨセフの言葉どおりにした。夜が明けると、その人々と、ろばとは送り出されたが、町を出て、まだ遠くへ行かないうちに、ヨセフは家づかさに言った。「立って、あの人々のあとを追いなさい。追いついて、彼らに言いなさい。『あなたがたはなぜ悪をもって善に報いるのですか。なぜわたしの銀の杯を盗んだのですか。これはわたしの主人が飲む時に使い、またいつも占いに用いるものではありませんか。あなたがたのした事は悪いことですか』」。
・家づかさが彼らに追いついて、これらの言葉を彼らに告げたとき、彼らは言った。「わが主は、どうしてそのようなことを言われるのですか。しもべは決してそのようなことはいたしません。袋の口で見つけた銀でさえ、カナンの地からあなたの所に持ち帰ったほどです。どうしてわれわれは御主人の家から銀や金を盗みましょう。しもべのうちのだれの所でそれが見つかっても、その者は死に、またわれわれはわが主の奴隷となりましょう」。家づかさは言った。「それではあなたがたの言葉のようにしよう。杯の見つかった者はわたしの奴隷とならなければならない。ほかの者は無罪です」。
・そこで彼らは、めいめい急いで袋を地におろし、ひとりひとりその袋を開いた。家づかさは、年上から捜し始めて年下に終わったが、杯はベニヤミンの袋の中にあった。そこで彼らは衣服を裂き、おのおの、ろばに荷を負わせて町に引き返した。
・ユダと兄弟たちとは、ヨセフの家に入ったが、ヨセフがなおそこにいたので、彼らはその前で地にひれ伏した。ヨセフは彼らに言った。「あなたがたのこのしわざは何事ですか。わたしのような人は、必ず占い当てることを知らないのですか」。ユダは言った。「われわれわが主に何を言い、何を述べ得ましょう。どうしてわれわれは身の潔白をあらわし得ましょう。神がしもべらの罪をあばかれました。われわれと、杯を持っていた者とは共にわが主の奴隷となりましょう」。ヨセフは言った。「わたしは決してそのようなことはしない。杯を持っている者だけがわたしの奴隷とならなければならない。ほかの者は安全に父のもとへ上って行きなさい」。
・この時ユダは彼に近づいて言った。「ああ、わが主よ、どうぞひとこと言わせてください。しもべをおこらないでください。あなたはパロのようなかたです。わが主はしもべらに尋ねて『父があるか、また弟があるか』と言われたので、われわれは言いました。『われわれには老齢の父があり、また年寄り子の弟があります。その兄は死んで、同じ母の子で残っているのは、ただこれだけですから父はこれを愛しています』。そのときあなたはしもべに言われました。『その者をわたしの所へ連れてきなさい。わたしはこの目で彼を見よう』。われわれは言いました。『その子供は父を離れることができません。もし父を離れたら父は死ぬでしょう』。しかしあなたは言われました。『末の弟が一緒に下ってこなければ、おまえたちは再びわたしの顔を見ることはできない』。それで父のもとに上って、わが主の言葉を彼に告げました。父が『おまえたちは再び行って、われわれのために少しの食糧を買ってくるように』と言ったので、われわれは言いました。『われわれは下っていけません。もし末の弟が一緒でなければ、あの人の顔を見ることができません』。父は言いました。『おまえたちの知っているとおり、妻はわたしにふたりの子を産んだ。ひとりは外へ出たが、きっと裂き殺されたのだと思う。わたしは今になっても彼を見ない。もしおまえたちがこの子をわたしから取って行って、彼が災いに会えば、おまえたちはしらがのわたしを悲しんで陰府に下らせるであろう』。わたしが父のもとに帰って行くとき、もしこの子供が一緒にいなかったら、どうなるでしょう。父の魂は子供の魂に結ばれているのです。この子供がわれわれと一緒にいないのを見たら、父は死ぬでしょう。しもべは父にこの子供の身を請け合って『もしこの子を連れて帰らなかったら、わたしは父に対して永久に罪を負いましょう』と言ったのです。どうか、しもべをこの子供の代わりに、わが主の奴隷としてとどまらせ、この子供を兄弟たちと一緒に上り行かせてください。この子供を連れずに、どうしてわたしは父のもとに上り行くことができましょう。父が災いに会うのを見るに忍びません」。
(2021.10.16)