梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「旧約聖書」通読・《創世記》・第42章

■第42章
・ヤコブはエジプトに穀物があると知って、むすこたちに言った。「あなたがたはなぜ顔を見合わせているのですか。エジプトに穀物があるということだが、そこへ下って行って買ってきなさい。そうすれば生きながらえて、死を免れるであろう」。そこでヨセフの10人の兄弟は穀物を買うためにエジプトへ下った。しかし、ヤコブはヨセフの弟ベニヤミンを兄弟たちと一緒にやらなかった。彼が災いに会うのを恐れたからである。こうしてイスラエルの子らは穀物を買おうと人々に交じってやってきた。カナンの地にききんがあったからである。
・ときにヨセフは国のつかさであって、国のすべての民に穀物を売ることをしていた。ヨセフの兄弟たちはきて、地にひれ伏して、彼を拝した。ヨセフは兄弟たちを見て、それと知ったが、彼らに向かっては知らぬ者のようにし、荒々しく語った。「あなたがたはどこからきたのか」。彼らは答えた。「食糧を買うためにカナンの地からきました」。ヨセフは、兄弟たちであるのを知っていたが、彼らはヨセフとは知らなかった。ヨセフはかつて彼らについて見た夢を思い出して、彼らに言った。「あなたがたは回し者で、この国のすきをうかがうためにきたのです」。彼らはヨセフに答えた。「いいえ、わが主よ。しもべらはただ食糧を買うためにきたのです。われわれは皆、ひとりの人の子で、真実な者です。回し者ではありません」。ヨセフは彼らに言った。「いや、あなたがたはこの国のすきをうかがうためにきたのです」。彼らは言った。「しもべらは12人兄弟で、カナンにいるひとりの人の子です。末の弟は今、父と一緒にいますが、他のひとりはいなくなりました」。ヨセフは彼らに言った。「わたしが言ったとおり、あなたがたは回し者です。あなたがたをこうしてためしてみよう。パロのいのちにかけて誓います。末の弟がここにいなければ、あなたがたはここを出ることはできません。あなたがたのひとりをやって弟を連れてこさせなさい。それまであなたがたをつないでおいて、あなたがたに誠実があるかどうか、あなたがたの言葉をためしてみよう。パロのいのちにかけて誓います。あなたがたは回し者です」。ヨセフか彼らをみな一緒に三日の間、監禁所に入れた。
・三日目にヨセフは彼らに言った。「こうすればあなたがたは助かるでしょう。わたしは神を恐れます。もしあなたがたが真実な者なら、兄弟のひとりを監禁所に残し、穀物を携えて行って、家族の飢えを救いなさい。そして末の弟をわたしのもとに連れてきなさい。そうすればあなたがたの言葉のほんとうであることがわかって、死を免れるでしょう」。彼らはそのようにした。彼らは互いに言った。「確かにわれわれは弟のこ事で罪がある。彼がしきりに願った時、その心の苦しみを見ながら、われわれは聞き入れなかった。それでこの苦しみに会うのだ」。ルペンが彼らに答えて言った。「わたしはあなたがたに、この子供に罪を犯すなと言ったではないか。あなたがたは聞き入れなかった。それで彼の血の報いを受けるのです」。彼らはヨセフが聞きわけているのを知らなかった。相互の間に通訳者がいたからである。ヨセフは彼らを離れて行って泣き、また帰ってきて彼らと語り、そのひとりシメオンを捕らえて、彼らの目の前で縛った。そしてヨセフは人々に命じて、彼らの袋に穀物を満たし、めいめいの銀を袋に返し、道中の食糧を与えさせた。
・彼らは穀物をろばに負わせてそこを去った。そのひとりが宿で、ろばに飼葉をやるために袋をあけて見ると、袋の口に自分の銀があった。彼は兄弟たちに言った。「わたしの銀は返してある。しかも見よ、それは袋の中にある」。そこで彼らは非常に驚き、互いに震えながら言った。「神がわれわれにされたこのことは何事だろう」。
・こうして彼らはカナンの地にいる父ヤコブのもとに帰り、その身に起こったことをことごとく告げて言った。「あの国の君は、われわれに荒々しく語り、国をうかがう回し者だと言いました。『われわれは真実な者であって回し者ではない』と答えると『あなたがたは兄弟のひとりをわたしのもとに残し、穀物を携えて行って、家族の飢えを救いなさい。そして末の弟をわたしのもとに連れてきなさい。そうすればあなたがたは回し者ではなく、真実な者であることを知って、あなたがたの兄弟を返し、この国であなたがたに取引をさせましょう』と言いました」。
・彼らが袋のおのを出して見ると、めいめいの金包みが袋の中にあったので、彼らも父も金包みを見て恐れた。父ヤコブは彼らに言った。「あなたがたはわたしの子を失わせた。
ヨセフはいなくなり、シメオンもいなくなった。今度はベニヤミンをも取り去る。これらはみなわたしの身にふりかかってくるのだ」。ルペンは父に言った。「もしわたしが彼をあなたのもとに連れてかえらなかったら、わたしのふたりの子を殺してください。ただ彼をわたしの手にまかせてください。わたしはきっと、あなたのもとに彼を連れて帰ります」。
ヤコブは言った。「わたしの子はあなたがたと共に下って行ってはならない。彼の兄は死
にただひとり彼が残っているのだから。もしあなたがたの行く道で彼が災いに会えば、あなたがたは、しらがのわたしを悲しんで陰府に下らせるであろう」。
(2021.10.14)