梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「旧約聖書」通読・《創世記》・第27章

■第27章
・イサクは年老い、目がかすんで見えなくなった時、長子エサウを呼んで言った。「わたしは年老いて、いつ死ぬかもしれない。あなたの武器、弓矢をもって野に出かけ、わたしのために、しかの肉をとってきて、わたしの好きなおいしい食べ物を作り、持ってきて食べさせよ。わたしは死ぬ前にあなたを祝福しよう」。
・イサクがエサウに語るのをリベカが聞いていた。エサウが、しかの肉を獲ようと野に出かけたとき、リベカはその子ヤコブに言った。「わたしは聞いていましたが、父は兄エサウに『しかの肉を獲ってきてわたしに食べさせよ。死ぬ前に、主の前であなたを祝福しよう』と言いました。それで、子よ。わたしの言うとおりにしなさい。群れの所へ行って、やぎの子の良いのを二頭わたしの所に持ってきなさい。わたしはそれで父のためにおいしい食べ物を作りましょう。あなたはそれを持って行って父に食べさせなさい。父は死ぬ前にあなたを祝福するでしょう」。ヤコブは母リベカに言った。「兄エサクは毛深い人ですが、わたしはなめらかです。父はわたしにさわってみるでしょう。そうすればわたしは父を欺く者と思われ、祝福を受けず、かえってのろいを受けるでしょう」。母は彼に言った。「子よ。あなたがうけるのろいはわたしが受けます。わたしの言葉に従い、行って取ってきなさい」。そこで彼はやぎの子を取り、母の所に持ってきたので、母はおいしい食べ物を作った。リベカは家にあった長子エサウの晴れ着を取って弟ヤコブに着せ、子やぎの皮を手と首のなめらかな所につけさせ、彼女がつくったおいしい食べ物とパンとをヤコブの手にわたした。
・そこでヤコブは父の所に行って言った。「長子エサウです。あなたがわたしに言われたとおりにしました。どうぞ起きて、わたしのしかの肉を食べ、わたしを祝福してください」。イサクはその子に言った。「どうしてこんなに早く手に入れたのか」。彼は言った。「あなたの神、主がわたしにしあわせを授けられたからです」。イサクはヤコブに言った。「子よ。近寄りなさい。わたしはさわってみて、あなたがエサウであるかどうかをみよう」。ヤコブがイサクに近寄ったので、イサクは彼にさわってみて言った。「声はヤコブの声だが、手はエサウの手だ」。ヤコブの手がエサウの手のように毛深かったため、イサクはヤコブを見分けることができなかったので、彼を祝福した。イサクは言った。「あなたは確かにエサウですか」。彼は言った。「そうです」。イサクは言った。「わたしの所へ持ってきなさい。わが子のしかの肉を食べて、あなたを祝福しよう」。ヤコブがそれを彼の所へ持ってきたので、彼は食べた。またぶどう酒を持ってきたので、彼は飲んだ。そして父イサクは彼に言った。「子よ。近寄ってわたしに口づけしなさい」。彼が近寄って口づけした時、イサクはその着物のかおりをかぎ、彼を祝福して言った。「ああ、わが子のかおりは、主が祝福された野のかおりのようだ。(略)」。イサクがヤコブを祝福し終わって、ヤコブが出ていくとすぐ、兄エサウが狩りから帰ってきた。彼もまたおいしい食べ物を作って、父の所に持ってきて言った。「父よ。起きてしかの肉を食べ、わたしを祝福してください」。イサクは言った。「あなたは誰か」。彼は言った。「あなたの子、長子エサウです」。
イサクは激しくふるえて言った。「それではあのしかの肉を取って、わたしに持って来たのはだれか。わたしはあなたが来る前に、みんな食べて彼を祝福した。ゆえに彼が祝福を得るであろう」。エサウは父の言葉を聞いた時、大声をあげ、激しく叫んで、父に言った。
「父よ、わたしを、わたしをも祝福してください」。イサクは言った。「あなたの弟が偽ってやってきて、あなたの祝福を奪ってしまった」。エサウは言った。「よくもヤコブと名づけたものだ。彼は二度までもわたしをおしのけた。さきにはわたしの長子の特権を奪い、こんどはわたしの祝福を奪った。あなたはわたしのために祝福を残しておかれませんでしたか」。イサクはエサウに言った。「わたしは彼をあなたの主人とし、兄弟たちをみなしもべとして与え、穀物とぶどう酒を彼に授けた。わが子よ、今となっては、あなたのために何ができようか」。エサウは父に言った。「父よ、あなたの祝福はただ一つだけですか。わたしを、わたしをも祝福してください」。エサウは声をあげて泣いた。父イサクは答えて彼に言った。「あなたのすみかは地の肥えた所から離れ、また上なる天の露から離れるであろう。あなたはつるぎをもって世を渡り、あなたの弟に仕えるであろう。しかし、あなたが勇み立つ時、首から、そのくびきを降り落とすであろう」。
・こうしてエサウは父がヤコブに与えた祝福のゆえにヤコブを憎んだ。エサウは心の内で言った。「父の喪の日も遠くないであろう。その時、弟ヤコブを殺そう」。
・しかしリベカは長子エサウのこの言葉を人づてに聞いたので、人をやり、弟ヤコブを呼んで言った。「兄エサウはあなたを殺そうと考えて、みずから慰めています。子よ。今わたしの言葉に従って、すぐハランにいるわたしの兄ラバンのもとにのがれ、あなたの兄の怒りが解けるまで、しばらく彼の所にいなさい。兄の憤りが解けて、あなたのしたことを忘れるようになったなら、わたしは人をやって、あなたをそこから迎えましょう。どうして、わたしは一日のうちにあなたがたふたりを失ってよいでしょうか」。
・リベカはイサクに言った。「わたしはヘテびとの娘どものことで、生きているのがいやになりました。もしヤコブがこの地の、あの娘どものようなヘテびとの娘を妻にめとるなら、わたしは生きていて何になりましょう」。
(2021.9.28)