梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「旧約聖書」通読・《創世記》・第19章

■第19章
・ふたりのみ使いは夕暮れにソドムに着いた。そのときロトはソドムの門にすわっていた。ロトは彼らを見て、立って迎え、地に伏して言った。「どうぞ家に立ち寄って足を洗い、お泊まりください。そして朝早く起きてお立ちください」。彼らは言った。「いや、われわれは広場で夜を過ごします」。しかし、ロトがしいて勧めたので、彼らはついに彼の所に寄り、家にはいった。ロトは彼らのためにふるまい、パンを焼いて食べさせた。ところが彼らの寝ないうちに、ソドムの町の人々は、その家を囲み、ロトに叫んで言った。「今夜おまえの所にきた人々はどこにいるか。それをここに出しなさい。われわれは彼らを知るであろう」。ロトは言った。「兄弟たちよ、どうか悪い事はしないでくだい。わたしには娘がふたりあります。これをあなたがたにさしだしますから、好きなようにしてください。ただこの人たちには何もしないでください」。彼らは言った。「退け」。また言った。「この男は渡ってきたよそ者であるのに、いつも、さばきびとになろうとする。それで、われわれは彼らに加えるよりも、おまえに多くの害を加えよう」。彼らはロトの身に激しく迫り、進み寄って戸を破ろうとした。その時、かのふたりは手を伸べてロトを家の中に引き入れ、戸を閉じた。そして家の入り口におる人々を、老若の別なく打って目をくらましたので、彼らは入り口を探すのに疲れた。
・ふたりはロトに言った。「ほかにあなたの身内の者がここにおりますか。あなたのむこ、むすこ、娘およびこの町におるあなたの身内の者を、皆ここから連れ出しなさい。われわれがこの所を滅ぼそうとしているから、です。主はこの所を滅ぼすために、われわれをつかわされたのです」。そこでロトは出て行って、その娘たちをめとるむこたちに告げて言った。「立ってこの所から出なさい。主がこの町を滅ぼされます」。しかしそれはむこたちには戯れごとに思えた。
・夜が明けて、み使いたちはロトを促して言った。「立って、あなたの妻とふたりの娘とを連れ出しなさい。そうしなければ、あなたもこの町の不義のために滅ぼされるでしょう」。彼はためらっていたが、主は彼らにあわれみを施されたので、かのふたりは彼の手と、妻の手と、ふたりの娘の手を取って連れ出し、町の外に置いた。その時、そのひとりは言った。「のがれて自分の命を救いなさい。うしろをふりかえって見てはならない。低地にはどこにも立ち止まってはならない。山にのがれなさい。そうしなければあなたは滅びます」。ロトは彼らに言った。「わが主よ。どうかそうさせないでください。しもべはすでに恵みを得ましそのちにた。あなたはわたしの命を救って大いなるいつくしみを施されました。しかし、わたしは山までのがれる事ができません。災いが身に追い迫ってわたしは死ぬでしょう。あの町をごらんなさい。逃げていくのに近く、小さい町です。どうかわたしをそこにのがれさせてください。それは小さいではありませんか。そうすればわたしの命は助かるでしょう」。み使いは彼に言った。「わたしはあなたの願いをいれて、その町は滅ぼしません。急いでそこへのがれなさい。あなたがそこに着くまではわたしは何事もすることができません」。これによって、その町はゾアルと呼ばれた。ロトがゾアルに着いた時、日は地の上にのぼった。
・主は硫黄と火とをソドムとゴモラの上に降らせて、これらの町と、すべての低地と、すべての住民と、その地にはえている物を、ことごとく滅ぼされた。しかし、ロトの妻はうしろを顧みたので塩の柱になった。アブラハムは朝早く起き、ソドムとゴモラの方をながめると、その地の煙が、かまどの煙のように立ちのぼっていた。
・こうして神が低地の町々、ロトの住んでいた町々を滅ぼされた時、神はアブラハムを覚えて、その滅びの中からロトを救い出された。
・ロトはゾアルを出て上り、ふたりの娘と共に山に住んだ。ゾアルに住むのを恐れたからである。彼はふたりの娘と共に、ほら穴の中に住んだ。姉が妹に言った。「わたしの父は老い、わたしたちの所に来る男はいません。父に酒を飲ませ、共に寝て、父によって子を残しましょう」。彼女たちはその夜、父に酒を飲ませ、姉がはいって父と共に寝た。ロトは娘が寝たのも起きたのも知らなかった。あくる日、姉は妹に言った。「わたしは昨夜、父と寝ました。今夜もまた父に酒を飲ませましょう。あなたがはいって共に寝なさい。父によって子を残しましょう」。彼らはその夜もまた父に酒を飲ませ、妹が行って父と共に寝た。ロトは娘が寝たのも起きたのも知らなかった。こうしてロトのふたりの娘たちは父によってはらんだ。姉娘は子を産み、その名をモアブと名づけた。これは今のモアブびとの先祖である。妹もまた子を産んで、その名をベニアンミと名づけた。これは今のアンモンびとの先祖である。
(2021.9.20)