梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

小説・センチメンタル・バラード(7)

    コドモは、あなたのではなかったのよ。愛していないわ。苦しくないわ。苦しいのよ。しあわせなの。たたかうのよ。ボクは、自分のでないコドモを、美智子とかいう女の子に、安産させてしまったことを、恥じなければならない。恥ずかしかったわ。恋人は死んだ方がいい。ボク達の、これからはじまる生活を、コドモにまかせてはいけない。生活は公園にはない。その向こうの森の中にはない。サヨウナラ、公園。サヨウナラ、森の中。たたかうのよ。たたかわなければいけないのよ。ボクはそのたたかいに勝たなければならない。おまわりは木刀を抜いた。サヨウナラ、おまわり。チャヨォナラ、おまわりチャン。たたかいははじまっているのよ。たたかいは続いているのだろうか。ボクは嘘つきです。ボクと恋人との討論は終わった。二万円の背広を、デパートで作らせることに胸をおどらせるのが生活なら、ボクは生活をあきらめよう。むなしいたたかいをあきらめよう。ボクの、愛していない大切な恋人は、ボクの自慰行為が三回で完結することを知っている。
(1966.4.20)