梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「本当はこわくない新型コロナウィルス」(井上正康・方丈社・2020年)通読・13《効果が見えない「3密回避」と「接触8割減」》

■効果が見えない「3密回避」と「接触8割減」
・新型コロナウィルスは「ヒト→ヒト感染」よりも「ヒト→モノ→ヒト」の感染ルートが重要であり、同時期にヒトが密集しなくても、感染者によって汚染されたモノを後から触っても感染することが明らかになっている。「3密回避」「接触8割減」「営業自粛」などを厳しくしてもPCR陽性者が減らないのは、「感染が人同士の接触密度と相関しないこと」を示唆している。
《図10 人口密度と死亡率は相関しない》
・スウェーデンや米国の人口密度は日本の20分の1程度だが、死亡率ははるかに高い。人口密度が日本の4分の1以下のEU諸国同士を比較しても、人口密度と死亡率は無関係である。
・新型コロナウィルスの感染予防には「3密回避」「接触8割減」「自粛」などの効果はきわめて少ない。
・これらのデータは、新型コロナのリスクは感染予防策とは無関係に、民族的および地域的要素(免疫的特性)が重要であることを示している。


■土着コロナと新型コロナの交差免疫
・ウィルスとの攻防で、重要なカギを握っているのが「交差免疫」と「集団免疫」だ。日本や東アジアには古くから土着のコロナウィルス(HCoV)が住み着いており、“風邪”の原因ウィルスとして、子どもの頃から何度も感染してきた。東アジアの民族は何万年も前から土着のコロナウィルスと共存しながら生活してきたので、コロナウィルスに対する抵抗力のある集団が多い。土着の風邪コロナに感染しながら免疫力を獲得してきたために、同じコロナ仲間の新型ウィルスに対してもある程度の免疫力を発揮することができる。このような働きを「交差免疫」という。
・今回、新型コロナウィルスに感染していないヒトの約34%で、新型コロナと反応する細胞性免疫のTリンパ球が確認されている。
・土着コロナに曝されてきた歴史と免疫的経験が、新型コロナによる重症化や死者数を抑制した可能性が考えられる。


■「弱毒株→強毒株」の順序が“本土”を防衛した“神風”
・今回は2019年の末から2020年2月にかけて、日本に新型弱毒株が上陸し、その後に強毒株が入ってきた。新型弱毒株がワクチンのような働きをして免疫力が強化され、次に入国した強毒株に対しても有効に働いたと考えられる。日本人は古くから土着のコロナによる免疫に加え、今回の新型弱毒株で免疫反応が強化され、これにより強毒株に対しても強い抵抗性を示したと考えられる。
・一方、欧米や南半球の人々はコロナウィルスに曝された経験が少なく、いきなり強毒株が入ってきたことで、重症者や死者が爆発的に増えたと考えられる。EUや南半球での状況は、世界中の人々が新型インフルエンザに対する免疫力を持っていなかった100年前のスペイン風邪と似ている。スペイン風邪では世界人口の30%が感染し、世界中で約1億人、日本でも約40万人が死亡した。世界人口が77億人の現在では、半年間で約70万人が死亡したが、医療レベル、衛生環境、栄養状態の進歩により、スペイン風邪並の新型コロナウィルスでもかなり有効に抑制されたと考えられる。
・いずれにしても、日本、東アジアの国々では、欧米や南半球ほどには深刻化せず、日本の死亡者も8月末現在で約1300名にとどまっている。


【感想】
・著者によれば、〈新型コロナウィルスの感染予防には「3密回避」「接触8割減」「自粛」などの効果はきわめて少ない。〉ということである。にもかかわらず、またまた首都圏では「緊急事態宣言」が出された。どのような結果が出るか楽しみである。
・本書が発行されたのが昨年12月、執筆は8月末までの状況を踏まえてると思われるが、死者は以後3倍に増えて約3900名になった。100万人あたり32.5人という計算になる。5月16日現在では5.6人だったから、約6倍に増えているので、油断はできないのではないだろうか。ただし、(6月の)厚生労働省の通達により、死者数が「水増し」されているので、本当のところはよくわからない。
・著者はあくまで「本当はこわくない新型コロナ」と言うのだから、ひとまず「楽観視」して次を読むことにする。
(2021.1.10)